不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

エレカシ作品感想「愛する力を求め続ける勇気を」

 前作でぶっ飛んだ針が、真逆の方向にまたぶっ飛んだのが『ライフ』だ。『good morning』が空を飛ぼうとしたのに対して、こちらは地に足をつけた感がある。前作同様ソロ同然の作業に加え小林武史プロデュースなので、エレカシ史の中でも異端の一枚と言えるかもしれない。はっきり宮本浩次のソロ作品にしておけば何の文句も言われなかったかもしれないが、まぁ宮本に「ソロ」というのは無理なんじゃないかなぁ。
 音は、人工的に抑え込まれているが、これまで通ってきた道を取り入れて、己の中で熟成させて歌に昇華されており、聴いていて心の底から落ち着く。怒りも悲しみも嘆きもない。「何も無い」という意味で『エレファントカシマシ5』に近い立ち位置だが、歩んできた道のりが違うので、全く違って聴こえてくる。
 立ち止まって、ふと自分自身と歩んだ道のりを顧みる。時代に逆行している35歳。迷っている日々を、素直に歌っている。そうやって歌われた孤独や迷いが、やはり人生の中で迷い孤独な俺達の心に染みいってくるのだ。
 このアルバムを引っ提げて行われた「Life Tour」、最終日の渋谷公会堂は俺のエレカシライブ初体験だった。二階席のやや後ろの席だったのだが、周りの客の乗りがずいぶん悪かった。後で知ったのだが、地方では客の入りは相当悪かったそうな。俺はこの時イエローモンキーやミッシェルなど、やたら盛り上がるバンドのライブに何度か行っていたので「あれ、エレカシってこんな感じなの?」と思い、そんな事は構わず、一人で盛り上がっていたのを覚えている。
 実は数年後の『Starting over』ツアーで、たまたま同会場のほぼ同じ席に座ったのだが、この時は観客の盛り上がりはハンパなかった。この差は何だったのかと考えれば、単純に「伝わったか、伝わっていないか」だろう。この時は、伝わり切れてなかったのだ。残念ながら。
 断わっておくが、ライブの内容はかなり良かった。DVDにもなっており、セットリストは新旧がうまく組み合わさっている。ホーンセクション、ストリングスを加えた大所帯形態ながら演奏はガッチリまとまっていたし、ソロみたいなアルバムのツアーでもバンドの調子もかなりいい。特に宮本の声の伸びは抜群で、途中観客の変な声で宮本がキレかけた事以外は、ステージパフォーマンスは文句なしだった。
 CDでは落ち着きのある曲が、ライブでは見事に化けて、迫力と深みが増していた。中でも“珍奇男”“so many people”はすばらしく、特にラストの“あなたのやさしさをオレは何に例えよう”の圧倒的な歌声と演奏、そして多幸感たるや感涙ものだった。
 前作と今作で針は振り切ってしまった。さて、次はどこへ行こう。その答えの片鱗が見えたのが、渋谷公会堂のライブだったのだ。

ライフ

ライフ