不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

皮ジャン、ジーパン、サングラスの巨匠

 堀川弘通『評伝・黒澤明読了。
 黒澤明への熱い尊敬の念を持ちつつ、クールな距離感を保っている良書。ただ、「黒澤明を徹底解剖」ではなく「私が見たクロさん」なので、不明な事があれば「知らない」「わからない」とはっきり書いており、主軸からすればそれでもいいのだが、調べて書いてよ〜と思ったのも事実。
 自殺騒動は、そばにいた人間だから見え隠れする黒澤明の陰と陽が読めたし、『野良犬』の未発表小説など興味深かった。中でも東宝争議は、さすが内部の人間だっただけあり、大ストライキというある種の政治闘争の中での黒澤明の在り方を克明に描いており、おもしろかった。
 でも、ちょっとあっさりし過ぎていた。ここで描かれているのは、「クロさん」以上ではない。もう少し「人間・黒澤明」、そして「映画監督・黒澤明」を読みたかった。まぁそこまで書くと膨大になるので、あくまでも自分の視線にこだわったのかもしれないけど。

「死人が出てもいいんですか?」
「ああ、しかたないね。必ず死ぬとは限らないんだから」

評伝 黒澤明 (ちくま文庫)

評伝 黒澤明 (ちくま文庫)