不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

自尊心と恐怖心

 ディック・フランシス『利腕』読了。読んでみたい作家だったが、どれを読んでいいやら迷っていたところ、詳しい人に教えてもらい選択。本屋で探したら、これだけ期間限定カバーで金色、目立っていた。
 元騎手で片腕の探偵シッド・ハレーが主人公。3つの事件が絡み合い物語は進んでいく。ハレーの人間像を深く掘り下げ、丹念に描写している。豊かな表現力で、それぞれのキャラクターが動きまくる。ぐいぐいと読み進んだ。おもしろい。
 脅迫によって、自尊心を失ったハレー。自己破壊、憐憫、蔑視、嫌悪の限界にまで追い詰められたハレーが、恐怖を乗り越えていく過程がいい。決して天才でもヒーローでもなく、一人の男として恐怖に打ち勝つ。いや、打ち勝つというよりも、向き合い、対峙し、直視するだけかもしれない。それができるかどうかが分かれ目なのだ。
 暴力や憎悪が十分に描かれている割には、爽やかな、スポーツ小説のような感覚があった。もっと俺が競馬を知っていれば、また競馬の魅力を感じていれば、さらに違った興奮があったのかもしれない。ま、これは仕方ないか。

利腕 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 12‐18))

利腕 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 12‐18))