不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

公の意志と私の意志

 ローレンス・ブロック『処刑宣告』読了。マット・スカダーシリーズならこれを、と薦められたので読んでみた。
 新聞社に手紙が送られてくる。「俺は人々の意志(ウィル)だ」とし、無罪になった殺人者やマフィアのボスの殺人を予告する。標的にされた相手は、どんなに警戒しても殺されてしまう。これまでに3人。そして4人目に、マット・スカダーの知り合いの弁護士が標的にされた。この予告殺人とスカダーの友人が殺された事件、二つが交錯して物語が進む。
 途中でネタ(犯人)が薄々わかってしまったが、文章の巧さでぐいぐい読み進んだ。
 人々の意志。「一つの悪を殺す事で多くの善が生かされる」という『罪と罰』。予告殺人というセンセーショナルな事件と人々の熱狂。その熱狂から生まれる歪み。映画『ゾディアック』を思い出した。
 主人公のスカダーが結婚しているわ、アル中を克服しているわ、仕事はそれなりに充実してるわで、緊張感がほとんどない。シリーズが長く続けばこういう時期もあるだろうけど、ゆるいんだよなぁ。いや、酔いどれ探偵じゃなく、幸福で充実しているスカダーの姿は、それはそれで微笑ましいし、妻エレインとの会話も、ユーモアに富んでいて楽しかった。しかし、『八百万の死にざま』の哀しくも幸せな解放感のように、読み終えて特別な気持ちに浸る事がなかったのは、ちと残念だった。

処刑宣告 (二見文庫―ザ・ミステリコレクション)

処刑宣告 (二見文庫―ザ・ミステリコレクション)