不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

羊と狼

 NODA MAP第13回公演『キル』観劇。作・演出、野田秀樹。出演、妻夫木聡広末涼子勝村政信、高田聖子、山田まりや、村岡希美市川しんぺー中山祐一朗小林勝也、高橋惠子、野田秀樹。衣装はひびのこづえ。再々演である。再演の『キル』が、俺が初めて見た野田作品だ。
 と、書き出しておいてなんだが、未だに野田作品に対しての言葉を、俺は持っていない。どんな作品でも「面白かった」になってしまう。前作『ロープ』は「プロレス」が題材だったので、何とか書けたが。
 とりあえず演技について。広末涼子は、冒頭はなんだかなぁと思っていたら、後半ぐんぐんのびていった。ちょっと驚いた。蜷川やつかこうへい作品に出た経験は生きていた、という事か。このまま作品(仕事)を選べば、いい役者になれるかもしれない。
 妻夫木の役は、前は堤真一が演じていた。堤と比べれば声も太くないし、演技も迫力がない。ま、舞台は初めてだそうだし、堤よりも若きテムジンにはピッタリと言えた。気に障るほど演技が下手だったわけではない。
 が、俺が見た公演では、一瞬セリフが飛んでしまったようだ。前半のキメともいえるシーン。時間にしたら3、4秒だろうが、彼の目が泳ぎ、動揺している事が観客にひしひしと伝わってしまった。何とか切り抜けたし、その後は問題なかったのだが、あの数秒が客に強く印象づけてしまった。妻夫木が話せば空白の数秒を思い出してしまい、そのたびに現実に引き戻されてしまう。いささか集中して物語に入り込めなかった。
 役者、演出家のエッセイを読むと、こういう事は結構あるようだが、俺は初めてだった。演者は相当焦るだろうけど、観客もビクビクだ。
 ま、それこそ経験が必要、という事かもしれん。いい役者になると思うので、がんばっていただきたい。しかし、主役には早かったな。
 と、演技についてだけは(偉そうに)饒舌に書いたが、肝心の内容については……。
 初見よりも、ぐっと物語は飲み込めた。結構、セリフを削ったのかもしれない。そのぶん、残った言葉が力強い。『キル』は「言葉の物語」である。言葉から希望を持ち、愛を感じ、幸せになり、また絶望を感じ、不幸せになる。それは個人だけでなく、共同体も、世界も、等しくそうなのだ。「言葉の怖さ」をひしひしと、そして現在この世界だからこそ強く感じる事ができた。