不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

たった4分間


 4分間のピアニスト鑑賞。監督・脚本はクリス・クラウス。出演、モニカ・ブライブトロイハンナー・ヘルツシュプルング、スヴェン・ピッピヒ、リッキー・ミューラー、ヤスミン・タバタバイ、シュテファン・クルト。
 女子刑務所でピアノを教えている老婆。彼女はそこでジェニーという天才を見つける。ジェニーは殺人を犯し服役しており、凄まじく暴力的であった。老婆はジェニーにピアノを教え、コンテストに出させようとする。
 メインストーリーは「若者と老人」である。サブとして「戦争の思い出」が加わり、時間軸が乱暴に前後しながら、強引に場面は転換していく。ストーリーとしてはよくあるパターンだし、編集も乱雑で乱暴に思えるが、気づけば画面に食い入っている。
 ジェニーは悲惨な人生を歩み、音楽の才能を持ちながら凶暴な存在になってしまった。その凶暴さは、外にだけでなく己の内面にも向かってくる。どう対処すればいいのか、葛藤が見える。
 老婆は、「音楽(美しいもの)にしか興味がない」と断言し、自分と合わない者(物)には冷たい態度を取る。その裏では過去の思い出と自分の悩みを抱えていた。
 人間の内面にある暗部、もっと言うなら「怪物」を描いている。いや、ここに出てくる人間達は、外見さえも怪物かしている。にも関わらず、美を追及する老婆、ピアノを弾くジェニー、彼女達はあまりにも美しい。特にジェニー。ハンナー・ヘルツシュプルングは新人ながら、圧倒的な凶暴さと美しさを見事に演じている。
 二人はいつも衝突する。それも激しく。老婆は「美を生み出す力があるのならば、生み出す事が生きる目的であり使命である」とジェニーに命令する。ジェニーは拒んでいるのか、受け入れているのか、とにかく、ピアノを弾く。
 それら衝突が緊張感を生む。ずっと緊張しっ放し。笑顔でピアノの前に二人がいても、いつ爆発するのかわからないので、油断できない。そのままラスト、クライマックスの4分間に突入する。
 4分間で何が起こるのか。予想以上の事は起こらない。起こらないが、内容はすばらしい。美への思いと、美を生み出す力の衝突は、4分間で頂点に達する。
 正直、共感や感情移入は全くできない。俺には老婆のストイックな美への思いも、ジェニーの過去や凶暴性にも、入り込む事ができなかった。だが、それらはどうでもいい事なのかもしれない。あの4分間の演奏を、4分間の「美」の衝突を見る為の映画なのかもしれない。