町田康『猫のあしあと』読了。
3年前、下北沢のスターバックス・コーヒーの片隅で、前作『猫にかまけて』を号泣しながら読んでいた男を見た事がある人、それは俺です。ちょうど近しい人を亡くしたばかりで、その時の気持ちが文章で表現されており、感情がリンクしてしまったのだ。鼻がむずむずした辺りでヤバイと思ったが、止める事ができずにそのまま読み進み、泣いてしまった。本を読んで泣いたのは後にも先にもあれ一回である。今回も涙腺を刺激されて涙が出かかった。
本書では、前作で亡くなったヘッケの兄弟がいたら受け入れたいと保護センターにお願いしたのに、次から次へと関係のない猫が連れてこられる。違う、と思いつつも追い返すわけにもいかないと引き受ける著者が微笑ましい。
しかし、猫は捨てられたという過去から人間不信。飼い主だろうが気を許さない。許さないが、病気を患っているので何とか看病しなければいけない。前作に比べてのほほんとした猫との日常は少なく、元ノラとの闘病生活が中心。そして猫との別れ。
一緒に猫と暮らしている人間からすると、他人事、もとい他猫事ではなく、思わず猫に優しくしてしまった。いや、していいんだけど。
猫が癒しになっているのは確かなのだが、そのもっと前に、この小さく弱い生き物の生命を預かっているのだという自覚が必要だ。人はそれを時々忘れてしまう。だから「飽きたから」「楽しんだから」「皮膚病になったから」と簡単に捨ててしまう。この自覚を忘れてしまっては駄目だ。
とりあえず、読み終わった後、冬に備えてホットカーペットを敷いた。猫も転がる。
- 作者: 町田康
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/10/19
- メディア: 単行本
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