不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

あるレスラーの引退

 小橋建太の事をいつ好きになったのかは、よく覚えていない。
 奇しくも小橋のレスラー人生25年は、ほぼ俺のプロレス観戦人生と重なっている。デビュー当時はガキだったし、意識していなかったので覚えていないが、俺がプロレスを見ているリアルタイムで小橋も成長していき、そのうちに興味も覚えるようになっていったのだろう。それでも、あくまで一レスラーとしての存在だった。俺は四天王の中では三沢光晴が好きで、とにかくまっすぐな小橋のプロレスはそれほどおもしろみを感じていなかったのだ。三沢の言葉を借りれば「サムシングがない」。まぁあくまで三沢との比較での話で、ハンセンとの死闘や三沢・小橋をはじめとした四天王プロレスは夢中で見ていたわけだが。
 それが一変したのは、いままさに書きながら思い出したんだけど、2000年2月27日のベイダーとの三冠戦だ。あの頃のベイダー旋風はそりゃすごいもので、一時、三沢が止めたものの勢いはまだまだ続いており、ベイダーを止めるのはもう小橋しかいないといった状況だったと記憶している。そして、ファンの期待を一身に背負ってリングに立った小橋は、代名詞であるラリアットで見事に勝利した。俺はあの試合を見た事で、何やら小橋への思いが変わっていったのだ。
 チャンピオン・カーニバル制覇、全日→ノアという大変動の後、二度の膝の手術という困難を乗り越え、誰もが驚くほど充実した身体になって戻ってきて、GHCヘビー級選手権での(最後の)三沢戦で王者となり、以後2年間、誰が言ったか知らないが言われてみれば誰もが納得の絶対王者として君臨し続けた。この頃には、もう小橋さん凄すぎますよ、あんたがプロレスですよ、とすっかり参ってしまっていた。
 病魔からの復活には感動して泣いたものだが、その後の姿は見るに忍びなかった。さらに三沢の事故である。小橋ほどのレスラーを、これ以上ボロボロにしていいはずがない。もう引退するべきだと本気で思った。俺だけでなく、そう思うファンは多かった事だろう。だから、引退を発表した時は本当にほっとしたものだったし、引退を非難するようなファンはいなかった。
 そして本日、引退の日を迎えた。生観戦をしたかったがチケットは買えず、とはいえネットやダフ屋から高額で手に入れるのは一本気な小橋の事を思うと何故だかする気になれなかった。CSなどの契約はしていないのでテレビ観戦もできず、ネット上であふれてくる熱い思いを読む事にした。
 引退にひと安心したくせに、今日一日は落ち着かなかった。いまでも引退してよかったと思う。だけど、同じくらい小橋がリングから去ってしまう事に淋しさを感じているのだ。勝手な想像だけど、たぶん武道館もそんな空気だったんじゃないかな。不思議で、しかしこれほど幸せな引退試合はめったにないだろう。
 小橋、お疲れ様でした。そして本当に有難う。