不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

七月二九日、君たちはどう生きるか

 何とか平日を生き抜き土曜日にたどり着いた、体力気力もあったのでようやく話題作を鑑賞へ。宮崎駿の新作君たちはどう生きるか、宣伝広告皆無で初速はよかったが失速したという記事を見かけたが、いやいや土曜の昼は満席であった。

 そして果たせるかな大傑作。これまでの集大成だの老いた心境だのこれが駿の原液だのといったものでなく、映画作家の現在地の最新型。最初から最後まで目が離せない、大部から細部まで恐ろしく研ぎ澄まされた作品であった、脱帽大拍手。個人的には宮崎駿作品の中でも断トツ。蓮實重彦はアニメは「生きた被写体を撮っているという緊張感が欠けている」と指摘し、確かに全てを自らの手で作成しなければいけないアニメは、「生きた被写体を撮って」はいないし、「緊張感に欠けている」のも否定はできない。『ミッション:インポッシブル』のトム・クルーズのアクションはアニメで描かれても全く違う質のものだ。蓮實氏があの映画やアクションを評価するとは思えないが。しかし、本作からは緊張感をビシバシ覚えた。一瞬の揺らぎさえも許さない、自らのイメージを具現化するために日本中のクリエイターを集め、鬼になった宮崎駿がいた。その宮崎駿がまさかここに来て、これまで自身が信じていた少女性や母性が「幻想なのではないか」と問い直すとは思わなかった。本編に魅入ってしまい、ラストの米津玄師の歌は覚えていない。米津玄師は好きだけど、『君たちはどう生きるのか』に関しては彼の歌詞はそれとしてあるにせよ、音楽なら久石譲を語ろう。すばらしかった、久々に感動した。

 『風立ちぬ』は見終わった直後は、これは宮崎駿の「残り時間少ないし、いろいろ背負うのにも疲れたから、オマエらはどう思うか知らないけど、もう俺は好き勝手させてもらうわ」という宣言だと見ていたので、直後の引退声明にずっこけたけど、その後やっぱり好き勝手に動き出したのでニンマリした。そして、その私の根拠ない期待そのままの作品だった。これを作っている間の宮崎駿、ノリノリだったろうな。そのドキュメンタリー見たい。いや、すごいもん見た。そして次作をまだ作ってくれ。しかし、いくら作品内で出てきて、一応のキーアイテムになるとはいえほんの少しだけで、なのにタイトルを拝借し、クレジットでは「原作、脚本、監督、俺」にしても許されるのは宮崎駿くらいだろうな。普通怒られるで。

 と大興奮してしまい、歩きながら、飯食いながら、コーヒー飲みながらカミさんとずっと映画の話をしてしまい、少し仕事をするつもりが、全く進まなかった。あかん、まぁそもそも休日に仕事をしようとするのがおかしいのだが。