不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

最近読んだ小説

 原りょう『それまでの明日』(早川書房。沢崎カムバック(と毎回言っているな)。今回は文庫を待たず四六版で読んだ。相変わらず隙のない筆さばき、謎解きではなく「何かを探して見つけた時にはそれは変わっていた」という本流ハードボイルドの王道、でありながらラスト20ページには驚きもあり、巧妙で読ませる。沢崎は変わらぬようで、歳と共に少し丸くなったな。決して新しくはない、むしろ古さを感じるけれど、同時に確かに「いま」の小説であり、それが大事だと思う。まぁ出てくる主要登場人物が男ばかりというところは、些か古すぎる気もしたが。女性を書くのが苦手?
 沢崎が自分のスタイルをいまに適合させたり、すれ違わせたりするのがよい。事件はミニマムでありながら、ドラマがある。チャンドラーの模倣や亜流にあらず。堪能した。『ミステリマガジン』の著者インタビューによると、前作の時に「早く書く術を身につけた」と言ったが、あれは自分の希望的コメントだったという。では今回の〆の言葉「構想はいままでになく、はっきりとある」も希望的コメントだったりするのか。また13年かかったり? まぁファンなら待つしかないわな。

それまでの明日

それまでの明日

 中脇初枝『魚のように』(新潮文庫。少し前、確か著者の小説が原作の『きみはいい子』の映画が公開された折り、Twitterで本書が絶賛されていて、不意にそれを思い出したので読んでみた。表題作がデビュー作で、高校生の時に書いたそうな。青春と孤独を純化し凝縮させたかのような小説。10代の時に読みたかったような、いや青春が過ぎ去った後のいまでよかったのか、ともあれ、読めてよかった。この新潮文庫版の装丁が、小説をよく表していて、とてもいい。
魚のように (新潮文庫)

魚のように (新潮文庫)