不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

あなたに本を

 アン・ウォームズリー『プリズン・ブック・クラブ――コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年』(紀伊國屋書店、向井和美訳)。その名の通りの内容で、選んだ本の内容と討論が、著者の強盗に襲われたトラウマ克服と、受刑者たちの己が人生、罪、内面との向き合いとリンクしていく、地味ながら力強い一冊。
 たった一冊の本が、自分の人生や内面への語りかけになったり、社会との対峙あるいは繋がりになっていたりと、読書の持つ力をまざまざと見せつけられる。読書会に参加するほど本に興味がある人ばかりだからでもあるけど、参加者たちが次第に本(読書会)に夢中になっていく様は興味深い。
 一方である受刑者は「文学は自分の内側にあるものを高めてくれる」と見抜く一方で「自分にはもう許す能力がない」「悲しみを説明できても、感じられない」と告白する。著者が誰よりも作家の才能があると見た男だったが、その結末は苦い。
 読書は決して万能なんかではない。だけど、それでも読書によって、生まれ変わったとは言わないけれど、自分の立ち位置を見据えたり、希望を持てたりする受刑者がいるのも事実なのだ。本には映画や音楽のように瞬間的な爆発力はないけれど、その遅さが武器になっているという事を、本書は証明していると思った。
 もう一つ言うのならば、「話す」事と「聞く」事の大切さもよくわかる。我々は言葉を介してしか、理解しあえないのだから。「読書の楽しみの半分は、ひとりですること、つまり本を読むこと。あとの半分は、みんなで集まって話し合うこと」。
 扱っている書物の半分は未邦訳で、どれもおもしろそうだった。邦訳されている中では、とりあえず『またの名はグレイス』は読まんとな、と思った。あと、コーマック・マッカーシーザ・ロード』が好評だったとか。自分だったら、何を選んで持っていくかなぁ。そういや、ずいぶん前に先輩と数人の読書会をやった事があったな。数回で途切れてしまったが、またやってみたいな。

プリズン・ブック・クラブ--コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年

プリズン・ブック・クラブ--コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年