不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

わたしがいる世界で

 柴崎友香『わたしがいなかった街で』(新潮社)。どんな小説か問われると、独身女性(と周辺にいる数人)の日常を描いているとしか説明できず、とはいえこの説明から想像するほのぼのものでは絶対になくて、ほのかな不穏な空気が常につきまとっていた。
 時間や場所を含めて「いまここにいる私」及び「そこにいない私」を事あるごとに問う。彼女は世界との間に違和感を覚えているのだが、その違和の原因を世界ではなく自己に見る。「世界が純粋な私を汚していく」などという、被害者面を決してしない。とにかく自分自身を疑問視し続ける。
 そして、その自己さえも外側から観察するという不思議な視点が、この小説にはある。世界と自己の関係を、一歩先へ踏み込ませ、自分がいる場所をぐらつかせているのだ。
 うまく感想が書けないのだが、おもしろいというより、変な言い方になるが、妙な強度を感じる小説だった。
 この作品は『新潮』2012年4月号に350枚一挙掲載された。俺はこの号を買っていて、しかし目当ては「【100年保存大特集】震災はあなたの〈何〉を変えましたか? 震災後、あなたは〈何〉を読みましたか?」だったので、そのうち読むつもりで結局単行本になるまで読まなかった。いまにしてみれば、全然おもしろくなくて、むしろ震災を遠くに感じるような大特集よりも、震災以前の物語を描いたこの作品の方が(以前を強調するように日付が書かれている)、強く感じた。別に直接言及したり描いたりしたっていいんだけど、俺がフィクションに求めているのはこういうものなんだよなぁとぼんやり思ったのだった。

わたしがいなかった街で

わたしがいなかった街で

新潮 2012年 04月号 [雑誌]

新潮 2012年 04月号 [雑誌]