文庫化を待っていたスティーヴ・ラーソン『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女』上下巻(ハヤカワ・ミステリ文庫)を読み終えた。文庫はずいぶんそっけない装丁だこと。
世界的ベストセラーになっただけあって、ぐいぐいと惹きこまれた。徹底したフェミニズムと、出版・雑誌界のリアリティ(広告の存在を明確にしていたのがいい)が物語に確固たる背骨を与え、ガッチリ支えている。
メイン事件の骨格は、言ってしまえば横溝正史ばりの血の因縁の混濁で、斬新さはないし情念も薄い気がするが、政治/経済ミステリー要素に加え、巧みに北欧(スウェーデン)の暗部を組み込んでいて奥深い。ジェンダー関連に関しては、男の俺も怒りでキレそうになるような事情だ。iBook(PC、ネット)が万能すぎやしないかという突っ込みはしておくが、ま、存分に楽しんだ。
上巻は二人の主人公を個々に描いてキャラを際立たせて、下巻で交錯して加速。ミカエル・ブルムクヴィスト周辺はセックス込みの男女関係なのに、恋愛感情と似て非なる共闘関係が出来上がっているのがおもしろい。それはおそらくミカエルのキャラ造形からだろう。支配欲を持たず、「ときどき愛人」という微妙な立ち位置をジレンマなく受け入れつつも、ダンディズムもある絶妙な男。映画ではダニエル・クレイグが演じると知っていたので、そのままイメージしたがピッタリだった。
ただ、正直言えば、ちょいとできすぎなオッサンではないかとも思う。ざらつきが全然ないというか、いろんな意味で都合がいいというか……個人的には味がとても薄い。そうなると相棒となるリズベットも、強烈なキャラ設定のわりには薄く思えて、二人の絡みももう一味欲しくなった。メインの真相解明から少ししぼんだ感あり。求めすぎかな。
続編を読むかどうか、迷うところ。実は俺は小説よりも、デヴィット・フィンチャーのリメイク映画の方が期待大で、その準備としてこの本も手に取った。予告を見ていただければわかるが、とにかくかっこいい。カレン・Oが歌う“移民の歌”とスピーディなモンタージュ。燃える。
ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)
- 作者: スティーグ・ラーソン,ヘレンハルメ美穂,岩澤雅利
- 出版社/メーカー: 早川書房
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ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)
- 作者: スティーグ・ラーソン,ヘレンハルメ 美穂,岩澤 雅利
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