不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

夢の時間

 三沢さん追悼番組についていろんな方が書いているが、俺も書きたくなったので書いてみる。
 多くの感想と重複するが、ホント〜〜におもしろい試合ばかりである。しらけたり、緩んだりする場面がほとんどない。*1経過や結末を知っているのに、見入ってしまう。懐古趣味でも郷愁でもない。間違いなく、おもしろい。こんなもんがバシバシ放送されていたのかよ。
 ジャンボ鶴田の怪物っぷり、スタン・ハンセンの超ド級っぷり、そして四天王プロレスの熱量、どれも半端ない。俺はプロレス素人にどの試合を見せるのが一番いいか、たぶん丸藤正道vsKENTAかなと考えていたが、どうやら違うようだ。この時期の試合を見せれば、たぶん一発納得だ。スティーヴ・ウィリアムスのバックドロップドライバー!
 あと、こう言っては大変失礼だが、ジャイアント馬場さん、つえーぞおい。俺世代はもう前座戦線がほとんどだったのでよく知らなかったが、三沢・小橋とやり合う馬場さんの貫禄とオーラがたまらない味だった。すんません!
 「カウント2! あと一瞬! この一瞬が永遠の差!」と実況したのはジャストミート福澤だが、まさに永遠。「これで終わり、いや、終わってくれ!」と観客が願うほどの2.9プロレス。実況アナが絶叫し、声がかすれてへとへとになってもまだ続く。いつの間にかやっている側も見ている側も、お互い見事にふらふらになりながら、時が流れていく。
 全日時代の、特に30代半ばあたりの三沢には色気がある。女も男も惚れる。NOAHになってからもGHC初代王座決定戦の高山へのエルボーコンビネーションに痺れたし、vs小川直也村上一成戦での、小川をグラウンドで完全にコントロールした上に「プロレス」の奥深さを見せつけたのには歓喜したものだった。三沢・小橋戦なんて、もう……ね。
 四天王プロレスといえば「大技で大味」とか「細やかな技術の欠如」とか「技のインフレ・過激化」と非難されがちだが、こうやって見ると、かなり細かな攻防が多い。ただ、どれも遠慮がなくえげつないので、後で思い返すとそればかりが目立ってしまうのだろう。中でも打撃が凄い。えぐい角度で振りぬいている。遠慮しろよ、少しはと突っ込みたい。しかし、それは信頼の裏打ちだし、「プロレス」への愛情だったと思う。
 こうやって、四天王プロレスを「おもしろいおもしろい」と言ってしまっていいものかとも考えた。これらの先に、あの日があるわけなのだから。
 興奮が過去になって、言葉で分析してしまえば先のように批判はいくらでも言えよう。それらについて、反論は特にない。
 だがしかし、やっぱりおもしろいのだ。凄いのだ。これは否定できない事実と言っていい。俺はあの試合を見て楽しんでいたし、今も好きだし、肯定もする。
 たとえばハンセン超えを果たした三沢さんのエルボーや、エプロンからのタイガードライバーや、ふらふら川田へのタイガー・スープレックスなどの前に。そして、お互いを信頼し、「プロレス」を命かけてやっている三沢と相手選手の前に、そんな言葉を発する事は、少なくとも俺にはできないのである。
 あんな時間は、たぶんもう訪れない。あの時期だけに発生した、夢のような時間だった。三沢光晴の死によって、夢から覚めたのかもしれない。だからといって、夢を否定する事もできない。
《夢なら覚めた
 だけど僕らはまだ何もしていない
 進め》
ASIAN KUNG-FU GENERATIONアフターダーク”)

*1:まぁダイジェストだったからかもしれんけど。