不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

「断片」の「断面」

 ミヒャエル・ハネケ監督『71フラグメンツ』をDVDで見た。ハネケ初期三部作「感情の氷河化」最終作。小細工なし、ストイックな作品で、ハネケの言葉を借りれば、前2作は「家族」の断面だったが、今作は「社会」の断面。付け加えるならば、日常に住んでいる人達の断面でもある。そういう意味では先日見た『プレイタイム』*1と似ているかもしれない。もっとも描き方が似ているだけで、描こうとしているものはかけ離れているけれど。
 細かいカットの連続。シーンは不意に、不自然に途切れる。何の繋がりもない人達が、クリスマス・イブの銀行で偶然に、そして必然に出会わせ、事件は起こる。突如、19歳の大学生が銃を乱射したのだ。
 相変わらず救いはない。とはいえ、絶望もない。唐突に目の前に現れた「断片」に戸惑い、途方に暮れる。そのシーンが来る事は知っていたのに、実際に来た瞬間「え、え?」と驚きと戸惑いの声を上げてしまった。答えなんてなく、この映画が描こうとしているものも、巧みに隠れている。
 人間が見ているのは「断片」に過ぎず、また「断片」しか理解する事ができない。シーンの合間に挟まれる戦争やマイケル・ジャクソンのニュースを伝えるテレビ番組も、結局は「断片」しか伝えていないのだ。日常と世界とを並列させ、痛烈に「断片」である事を感じざるを得ない。そして、見る者はこの映画で描かれた数々の「断片」と、それらの繋がりから、現実と「断片」の隙間にある真実や美を見出さなければならない。つかもうとした瞬間、逃げてしまう美を。

芸術とは、真実という嘘のない魔法である。
アドルノ

71フラグメンツ [DVD]

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