不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

哀しく辛くて楽しい

 ウィリアム・サローヤン『ディア・ベイビー』読了。
 サローヤンは随分前に『パパ・ユーアクレイジー』『ママ・アイラブユー』を読んだだけ。『ママ〜』が特に面白くかった。訳者が岸田今日子(!)。子供のイノセンスを盛り込んだ会話のセンス。するりと読める物語、そこに込められている人生の機微。
 本書はサローヤンの処女作「空中ブランコに乗った若者」を含む短編集。『パパ〜』『ママ〜』に較べると、シニカル。世界が真っ直ぐで、それを肯定するためのシニカルさだったけど、もしかしたら今じゃ適応しないかもしれない。
 それでも読んでいて、とても愛おしくなる登場人物ばかりだった。

 世間は狭いというけれども、再び会うことがなければ、そのひとたちは死んでいるのである。もし出会った場所へ戻って、ひとりひとりを捜し、見つけ出したとしても、彼らは死んでいるであろう。なぜなら、誰がどの道を行こうと、それはひとを殺す道なのである。

 生きていくのが哀しく辛い。成功しても、失敗しても、愛しても、裏切られても、最後は死んでいく。唯一の真実を見つめた作品群だった。

ディア・ベイビー (ちくま文庫)

ディア・ベイビー (ちくま文庫)