村上春樹『遠い太鼓』読了。読んでいなかったので。
日本を離れて生活していた3年間の、エッセイというか旅行記というか、誰かに宛てた手紙のような文章達。通常のエッセイよりもぐっと村上春樹の「地」が見えた気がした。特に「午前三時五十分の小さな死」なんかはよかった。
『ダンス・ダンス・ダンス』にはハワイに行く描写があって、そのせいか読み終わると猛烈にハワイに行き、ビーチで(飲めない)ビールを飲みたくなる。これは単にハワイの描写があるだけでなく、これを書いている時に村上春樹自身が「ハワイに行きたい」と思っていたから、読者にもその想いが伝わったのだ。
面白いのは、『遠い太鼓』を読むと当然「旅に出たい」と思うんだけど、それは「(そのうち)旅に出たい」なのである。だけど『ダンス・ダンス・ダンス』は「(今すぐ)旅(ハワイ!)に出たい」と思う。その文に込められている想いの違いというのが、こういう形で現れるんだなぁ。
歳をとることはそれほど怖くはなかった。歳を取ることは僕の責任ではない。誰だって歳は取る。それは仕方のないことだ。僕が怖かったのは、ある一つの時期に達成されるべき何かが達成されないままに終わってしまうことだった。それは仕方のないことではない。
それも、僕が外国に出ようと思った理由のひとつだった。日本にいると、日常にかまけているうちにそしてそうしているうちに何かが失われてしまいそうに思えた。僕は、言うなれば、本当にありありとした、手応えのある生の時間を自分の手の中に欲しかったし、それは日本にいては果たしえないことであるように感じたのだ。
そして僕は何処にでも行けるし、何処にも行けないのだ。
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1993/04/05
- メディア: 文庫
- 購入: 12人 クリック: 109回
- この商品を含むブログ (143件) を見る