不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

美と欲望のオーケストラ

 中川右介カラヤンフルトヴェングラー読了。
 クラシックに明るくないが、本書は「音楽」よりも「人間」「歴史」に重きを置いているので、世界に入り込めやすかった。タイトル通り、二人の指揮者の話である。二人の指揮の違いがわからなくても大丈夫。
 ベルリン・フィルの主席指揮者の座はクラシック界最大の名声と権力を持っている。三代目に君臨しているのは巨匠フルトヴェングラー。四代目は帝王カラヤン。しかし、その三代目と四代目の間には激しい駆け引きがあった。時、あたかもナチス時代。一つのオーケストラの権力闘争を、ナチス、そしてヒトラーが大きな歴史ドラマとしていく。
 どこの世界でもそうだろうが、天才が必ずしもトップに立てるわけではない。トップに立つのは才能に加え、プロデュース能力、営業能力、情報収集力、人身掌握術……様々な要素が必要なのだ。特にオーケストラ指揮者は、大人数の楽団を取りまとめなければいけないのだから、大変だろう。そこに、更に「時代」という要素も入ってくるし、「運」も出てくる。いや、そういったものすらも味方にしてしまうのが、本当の天才なのかもしれないけど。
 音楽を知らなくても楽しめると書いたが、やはり知っていた方がよかったな。「ここで××を演奏」とあったら、その音楽を知っているか知らないかでは、臨場感が違う。その音楽の意味もわかっていると、なお面白いのかもしれない。
 同じ事を繰り返し書くので、少々文章がくどく感じた。それに戦時中の話は緊迫した空気が伝わってきたが、終戦後はちとまどろっこしかったかな。でも、面白く興味深かった。本書ではオーケストラを「一つの存在」にしていたけど、当然、たくさんの人数で構成されている。その中でもドラマはあったんだろうなぁ。そう思うと、凄まじい人間模様だ。

カラヤンとフルトヴェングラー (幻冬舎新書)

カラヤンとフルトヴェングラー (幻冬舎新書)