イアン・フレミング『007/カジノ・ロワイヤル』読了。そういえば原作を読んだ事がなかったので、読んでみる。スパイ小説と思っていたが*1、いやはや、一級のハードボイルド小説だった。
原作は冷戦時代の話だが、映画では「9・11」という言葉が出てくる様に、舞台は現代。原作でル・シッフルと勝負するのはバカラだが、映画ではポーカー*2。と、違いが多々ある。最も大きな違いはジェームズ・ボンドのキャラクターだろう。第一作目で、まだ固まっていなかったそうだ。例えば女性に冷たいとか、やたら冷徹だとか。ハードボイルドだった。俺はこっちの方が好きかも。
アクションも少ない。カーチェイスがあるものの、字でカーチェイスを読んでもピンと来ない。クライマックスは映画と同じくル・シッフルとのカード対決。心理戦は面白いけど、映画の方がスリリングだったかも。まぁ比べてもしょうがないんだけど。
こんな箇所がある。
「こんな国家間の正邪の問題はちょっと時代おくれになってるよ。現在われわれは共産主義と戦っている。それはいい。しかし、もし五十年前に生きていたら、いまわれわれが保守主義ときめつけている連中も、共産主義に近いものと見られていて、われわれはそいつらと戦えといわれたかもしれないんだ、近ごろでは歴史の動きはとても速くて、英雄と悪者もたえず立場を変えているよ」
拷問から解放され、療養生活を過ごしているボンドが自問自答するシーン。更にボンドは「悪」という存在について語り、それに対して同僚のマチスが反論する。その後、ボンドに待ち受けていたものとは。彼が「007」となった理由が明らかになる……そこは読んでいただきたいわけだが、映画よりも説得力があった。
客観的で冷静な視点だが、驚くほどのセリフではない。しかし1953年という冷戦の時代にこう書かれていたと思うと、意外だ。今よりも分かりやすい構図、「ソ連=共産主義=悪」という図式が出来上がっている時代に、このセリフを書けるのは凄い。イギリスだからか?
気になるのは、この箇所が映画ではなかった事が(記憶が間違っているかもしんないけど)。今こそ、このセリフが有効に響くんじゃないかと思った。
面白かった。他の作品も読んでみよ。
- 作者: イアン・フレミング,井上一夫
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