森見登美彦『きつねのはなし』読了。
これまた帯につられて読んだ。《薄闇の京都でみた悪い夢。目覚めても夢の続きにいるような》。京都を舞台とした奇譚集。ホラーというか、怪談みたいなのかと思っていたが、ちょっと違った。“恐怖”を前面に押し出しているわけじゃなく、説明できない不可解さがある。“幻想”の二文字がしっくりくる。
京都の骨董店を中心に奇怪な出来事が起こるのだが、同じ奇怪な出来事でも『夜は短し歩けよ乙女』と違って、どこか薄気味悪い。事件に伏線がありそれを回収したり、内面描写や謎解きなど、いわゆるクライマックスがないので、肩透かしを喰らう人もいるかもしれない。クライマックスがなかったり、読者に放り投げたままなのは嫌いじゃないけど、本作はちと物足りなさがあったかな。個人的には『夜は短し』の方が好き。
若者の青春の一部、という読み方もできる。ある一時期過ごした京都での幻想のような日々。さすがに青春小説とは言えないけど。語り手である若者が物語の中心にいないのが印象的。あくまでも語り部に過ぎず、だからこそ幻想的に読めたのかも。
月夜の晩が似合う作品でした。二つ目の「果実の中の龍」が好き。嘘って何だろう。
- 作者: 森見登美彦
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/10/28
- メディア: 単行本
- 購入: 21人 クリック: 602回
- この商品を含むブログ (280件) を見る