不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

メッセージ/明日の君を昨日知る


 原作未読。昨日と明日の垣根を溶かした今日と自我を永遠へと流し込む。物語が遅い自身の筆致を熟知したヴィルヌーヴの職人芸が見事に冴え渡っていた。だが一方で、「future」という言葉が出てくるあたり、時間=生きるという我々の概念からはやはり飛べないものだなとも思った。祝福も残酷も見通せる中で何を選択するのか。先が見えてもその時間に私たちは生きるしかないというハードボイルドなロマンチズムが、ルイーズを演じたエイミー・アダムスが体現していた。
 ただ、正直言ってちと退屈ではあったかなぁ。SFは「すごく・ふしぎ」より「すこし・ふしぎ」の方が好みなのもあるが、時間概念を突破するのは難しいなと。そして次は生命の境界線を揺らす作品なので、結構期待している。
 未読の原作はさることながら、吉田健一の『時間』も読んでみようかと思った。

マンチェスター・バイ・ザ・シー/人が海に戻ろうと流すのが涙なら


 皆が許して罪を問わないけれど、俺だけは俺を許さず罰を与えよう。そうでしか俺は俺を許せない。あの殺風景な部屋は独房に他ならない。そうして擬似親子が補完しあって支え合うというよりも、どうやって俺達は日常や生活に戻っていけるのだろうと血の轍を共に歩いて模索する喪の仕事。だが、片や前途ある若者で充実した私生活や未来など何もかもが光に満ちている一方で、暗闇の中でそれを眩しそうに見るしかない過去から抜け出せない男は、「乗り越えられないんだ」と声に出して打ち明ける事で答えを振り絞るしかなかった。登場人物の感情や生活のフェアな描き方、雪や光や曇天模様などはすばらしかったのだが、しかしその結果少し演出がやかましく思えたかな。猫背でハスキーなケイシー・アフレックは前評判通り好演。