不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

ジャックをヘッドに突っ込んで

「人生にはギターが必要だ」という宣伝文句なのに、冒頭で木片と釘と玄とコーラ瓶でギターもどきを作って「ギターなんかいらないね」とジャック・ホワイトが言い放つものだから、思わず腰砕け。しかも別に示唆に富んだ発言ではなく、思いつきみたいだったし。
 『ゲット・ラウド ジ・エッジ、ジミー・ペイジ、ジャック・ホワイト×ライフ×ギター』を見た。監督、デイヴィス・グッゲンハイム。出演はタイトルの三人。何もタイトルに名前をずらり並べなくてもええやんけ。

 いきなり書けば、驚くほど軸のない映画で、「三人のギタリストに集まってもらい、ギターについて話してもらう」というざっくばらんな企画書のままのような内容。もうちょっと何とか形にしておけよ、とまず言いたい。
 偉大なギタリストが集まったらすごい事が起こるのかと言えばそうでもなく、お互い手探りなままつかず離れずトークは進む。ブルースを根底に置くジミー・ペイジとジャック・ホワイトに比べれば、ジ・エッジはいささか座りが悪い気がするし、ジャックが「テクノロジーなんてクソだ」と毒づいた後に「エフェクターって最高だよね」とエッジが言ったりして、この鼎談だいじょうぶなのかよと心配になりつつも笑ってしまった。
 ギタリストサミットという大仰なものを狙ったのかどうかは知らないが、自らの半生が図らずもロック史と重なり合ってしまった三者が、意外なほどパーソナルな部分をむき出しにしていったのは興味深く、決して派手にせずに抑制を聞かせる演出と、当時の貴重な映像の挟み込みは気が効いていた。一部分だけ謎のアニメーション演出があったがあれははなんだったのだろう……。あと、音楽ドキュメンタリーだと、どうしても「もっと音を聞かせろ」と思ってしまうのは仕方ない事だろうな。
 ハイスクールの片隅でライブをやったんだ、僕の立ち位置はこっちでそれからずっとそうさ、最初のギターはエクスプローラーだったんだよ……などと、まさに青春プレイバック状態から始まったバンドヒストリーが、そのうちにアイルランドの「闘争」へ変化していき、シリアスな話をしながらも自慢のリフがエフェクターがないとこんなもんさと笑いながら弾くU2のジ・エッジ。
 無邪気に好きなレコードから始まった半生が、まさにイギリスのロック史を体現したかのようで、しかし下積み時代もたっぷりあってそれが後の爆発を生んだのかと感心したが、肝心のレッド・ツェッペリン結成デビューについては全く触れらなかったジミーの爺さん。
 小さなジャック・ホワイトを従えてけむに巻くのかと思いきや、さらりとホワイト・ストライプスのネタ元を明かし(Flat Duo Jetsなんて強烈な音を出すデュオ、全く知らなかったよ)、売れる事をきちんと考えつつ、幼なじみと結成したThe Raconteursの音が一番グルーヴィでいい音なジャック・ホワイト(ややこしい一文になったな)。
 三人の共通点はギター以外になさそうではあるが、たとえばジミー・ペイジが“Whole Lotta Love”のリフを弾いてみせると他の二人が思わず身を乗り出したり立ちあがったりする姿はまるで少年のようだし、その憧れのペイジはセッションのリハの際に「歌えないんだ」「全然歌えないんだ」と情けない顔をしたりと、なかなかに楽しげなひと時だったよう。
 と、まぁ三人のうち二人くらいに興味がないと見ていてキッツい内容かとは思うが、逆に少しでも興味を覚えたロック少年少女ならば、是が非でも見に行く事をお勧めしたい。俺の隣の席にはTOWER RECORDの袋を持った少年たちがいて、これからも「葛藤がなければ作ればいい」というジャック・ホワイトの名言を胸に転がっていってほしいものだと、don't trust over thirtyになってしまったオッサンは思うのだった。