不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

英国の地べたから

 ブレイディみかこ『子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(みすず書房。『ヨーロッパ・コーリング』がイギリスの上半分を、そして本書が下半分を書いている。著者の本はほとんど読んでいるが、これまでで一番おもしろかった。どうしたって政治を語る場合は、誰かの言葉を借りなければならなかったが、本書は自身が働いてきたうえでの経験と考えに基づいているので、視線にも考えにも力がある。だから読んでいて、たとえ意見が違っていたとしても、こちらまで届いてくるのだ。惜しむらくは、タイトルが固くてダサいこと。
 個から全体を(また全体から個を)見る際に、どうしても出てしまう取りこぼしを丹念に拾い上げている。どこかで見かけた「多様性とは〈特殊なリアル〉の集合体」という言葉を思い出した。普通なんてなくて、みんな〈特殊なリアル〉なのである。一つひとつの出来事に愕然としたり、脱力したりするけれど、少しだけど光がある。それは先日見たドキュメンタリー映画アメリカン・ドリームへのレクイエム』でチョムスキーが引用した亡くなった友人の言葉に通ずるものだったと思う。

「世界について学べば行動の方法が分かる。機会はいくらでもある」
「重要なのは名もない人々の数え切れない小さな行動の一つ一つだ。それらが歴史的な出来事の礎となる。彼らが過去を、そして未来を動かしていく」

 ところで、俺はずっと「日本はアメリカではなく、イギリスの後を追っている」と思っていて、たぶんそれは間違いではなさそう。ただ、一方で現政権は(細部を見ればいろいろあるが)反緊縮ではあるので、そこが現イギリスとの分かれ道になるのかなぁとも思っている。その辺のことは、松尾匡、岸政彦との刊行記念鼎談で語られると思うが、残念ながら気づいた時には満席だった。
 といったわけで、とにかくこの本はおもしろい。タイトルが固くてダサいけど(二度目)、文体は読みやすいし、読みごたえは保証する。もし異論反論があるのならそれも聞いてみたい。オススメです。