不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

エレカシ作品感想「緑生い茂り」

 皆さんご存じだと思うが一応おさらいすると、エレファントカシマシは『東京の空』を最後にエピック・ソニーとの契約を打ち切られる。契約打ち切りと聞けばレコード会社を恨みたくなるが、これまで「異常」と言えるようなアルバムばかりを作ってきたバンドと、よくぞまぁ7枚も仕事をし続けたものだ。逆に感謝したくなる。その後、紆余曲折あり、ポニーキャニオンと再契約を果たす。
 シングル“悲しみの果て”(“四月の風”との両A面)で再デビュー。タイアップや積極的なプロモーション活動により、そこそこヒット。そして2年3カ月ぶりのアルバム『ココロに花を』をリリース。オリコン順位10位に喰い込んだ。
 順位なんぞを気にするのは如何なものかと思う事もあるが、なんせセールス不振で契約を打ち切られたバンドだ。「売る」とは何か、を心底考えた事だろう。「順位なんか関係ない」「売れる売れないは問題じゃない」というのは、売れた事がなければ言っては駄目なセリフなのだ。
 肝心の内容は、エピック時代の崩壊寸前のダイナミックさはなりを潜めたが、その代わりにコンパクトかつ上質な曲を聴かせるアルバムに仕上がっている。宮本浩次のソングライティングセンスが光り、それをバンドが完璧に演奏し、これまで絶叫系だった宮本のボーカルも、のびやかに歌い上げ、じっくりと心にしみわたる。名盤とは言わないが、清々しく、再デビューを果たしたバンドの名刺代わりに十分な作品だろう。
 “愛の日々”なんてストレートなラブソングもあり、毒が抜けた印象を受ける人もいただろうが、エピック時代も愛を歌っていなかったわけではないし、そもそも曲がゴミではなく、渋いしっとりしたいい曲なので、文句はない。
 それに、あの胸をかきむしるような激情が宮本から消えるわけがなく、そのうちにこの二つの路線が交わるわけだが、それはもう少し先になる。なんにせよ、器用に売れ線ポップソングに切り替える事ができるんなら、もっと早く売れるはずだ。
 とにかく今作では、これまで厭世的で、愛憎入り混じりの目で人と世界を見てきた男が、まっすぐに、力強く歌っている。《ああ 何処へ行くのやら/明日は何があるのやら》という、これまでなら後ろ向きなぼやきに聴こえる歌詞も、全くの逆で「ま、なんとかなるな、がんばろ」という前向き楽観的な響きとなっている。それがどうしようもなくやさしく、こちらに力を与えてくれる。
《明日もがんばろう/愛する人に捧げよう》
《悲しみの果ては/素晴らしい日々を/送っていこうぜ》
 本当にそう思える一枚。

ココロに花を

ココロに花を