不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

最近読んだ本

 宮野真生子・磯野真穂『急に具合が悪くなる』(晶文社。書くという行為は孤独な行為だとどこかで考えているのもあって、書簡集や文通というのは苦手なのだが、濱口竜介が映画化すると聞いて読んでみた。ガンになり転移もしながら生き抜こうとする哲学者と、臨床現場の調査を積み重ねた人類学者の文通。ユーモアを忘れずに、しかしお互いから目を逸らすまいとするのがわかる。手紙に込める筆圧も高かろう、メールだろうけど。ガンで亡くなった母と、最後の一年ちょっとを共に過ごし、その姿を見ていた姉と自分を思い出し、所々で涙を堪えながら読んだ。

 平松洋子『父のビスコ』(小学館文庫)。著者初の自伝的エッセイで、両親の年齢から当然戦争の話にもなっている。歴史と土地と食で紡がれる人間の一生。夏前の戦争を思う時期に読めてよかった。《「もし」の連打が、私という一個の人間の存在を激しく揺さぶってくる》。名著です、平松洋子はやはりすごい。

 柴崎友香『帰れない探偵』(講談社。自分の家、自分の国に帰れなくなってしまった探偵の物語。何かを探す、求める、歩く、向かう。これもまた歴史と土地と食の物語と言えるかもしれない。どちらかといえば軽いSFのような設定に思えるが、「探し求めていたものにたどり着いた時、それは変わっていた」というまぎれもないハードボイルド小説でもあった。十年あとにも読み返したい。