不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

死ぬのを待っていた男

 数年前に「死ぬのを待っているんだよ」と言っていた老人が亡くなったのは昨年末だった。その一ヶ月ほど前にまさにそう言われてから数年ぶりに会っていた。相変わらず「もう死ぬよ」とさらりと言って実際に入退院を繰り返していたそうだが、杖をついた足元はやや弱っているものの一人で歩けるし頭はクリアだったので、なんだ元気そうだなと思ったのだが、十二月に入ってすぐに体調が悪化し、そのまま逝ってしまったという。達観しているようだけど俗物で、友人たちを見送っていくのがさみしそうだった。最後に会ったのは喫茶店で、パンケーキとコーヒーを楽しみながら話をして、「これから競馬の予想をするんだ」と競馬新聞片手に赤ペンを持って笑顔で言っていたのを覚えている。喫茶店に行ったらまだ隅っこにいそうな気がするけれど、その喫茶店に私が行く事はもうないだろう。