不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

一二月一四日、映画館へ

 『アフター・ヤン』以来約二ヶ月ぶりに映画館へ。この一年は咳が出るからと自分のためにも周りのためにも映画館から遠のいていたが、肺炎治療でようやく治ってきて安心して行けるようになった。まずは『THE FIRST SLAM DUNK。原作ファンな上に、陵南戦と山王戦だけは愛蔵版でいまだに手元に置いておくほど好きなので期待は膨らんでいたが、果たせるかな、映画としてはまあまあというか駄目なところは多々あれど、事前の期待を上回ってくれて大満足ではある。

 湘北メンバー五人の中で唯一「普通の人」宮城リョータの半生を基軸にする事で、リョータの他のメンバーへの視線と観客の視線が重なる形にしているのが効果的。率直に言ってリョータの半生ドラマはドラマチックでもありきたりで陳腐なものだが、それが「普通の人」である事をより際立たせる。過去と現在のジグザグ進行はややチグハグでうまくいっているとは言い難いものの、その二つの空間と時間を最後に試合で交差させる演出はグッとくるものあり。ただ、リョータ以外の人物の過去ドラマはややノイズで(特に沢北)、かといってあの二人のように何も描かなければ置いてきぼりになるから、原作を読んでいればともかく未読だとおもしろさは半減したのではないか、「原作未読でも楽しめる」事はないと思う。

 実はオープニングの時点で井上雄彦の線で描かれた選手たちがそのまま映像として動いている事に衝撃を受けた上に、The Birthdayの音とチバユウスケの声があわさって大感動してしまい、その後は逆にわりと冷静になってしまったのだった。だが常にプレイヤーとボールが動き続けるバスケの試合で、時間を各々のタイミングで伸ばし縮め歪めてその瞬間瞬間にダイナミズムを生じさせており、そのタイミングがとにかく絶妙で監督が原作者だからこその妙技かもしれない、息を呑む事多数。初監督作ならではの拙さと情熱と誠実さと傲慢さ、全てが込められていたので、どんなに批判しても結局は満足は満足なのです。でも、もうやんなくていいかな、『スラムダンク』の映像化も、井上雄彦の映画監督も。

 喫茶店で時間を潰してから、今度はデヴィット・ロウリー監督作『グリーン・ナイト』へ。映画のルックもタッチも演技も何もかも抜群によくて、たいへん好みなのだけど、もともとファンタジーが苦手なのもあってか全く内容が頭に入ってこず、これは一体なんなんだ、わけわからんと思っているのに、見ていると何だか妙におもしろくて、終盤は圧倒すらされてちと感動してしまった。たぶん原作やら元ネタやら(アーサー王伝説など)を知っていれば、百倍くらい楽しめたのかも。事前情報をあまり入れないようにしたのがミスだったか。とはいえ、原作を読んでまた見る気にもさすがにならない。いずれ配信が始まったらかな。

 全く違う感触の二作品を見て満足かつ疲れた。