不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

冬の出会いと別れ

 あなたと出会ったのは二〇一九年の冬でした。その一年前に妻が難病になり、あれこれと対応している間に時間が過ぎていき疲れ切っていた私の前にあなたは現れて、冷たくなった心と身体を温めてくれました。すぐさま虜になりましたが、毎日会いに行ってはいけないと己を戒め、それでも週に一回、多い時は二回あなたに会いに行ったのです。そこに行けばあなたがいる、それだけで私は満足していました。ところが冬が終わり春になろうという時に、あなたはいなくなってしまったのです。探そうと思いましたが、探すまでもなくそこにいなければいない、喪失を受け入れて、それでもきっと次の冬にはまた会えるんだと自分に言い聞かせていました。しかし次の冬、そしてまた次の冬もあなたは私の前に現れませんでした。そして今年、きっと会えるよりもきっともう会えない、そう思っていつもの場所に行きましたがやっぱりあなたはいませんでした。理由はわかりませんが、もう二度と姿を現さないのだろうと半ば確信しています。次に会えた時はもうあの頃の私たちではなく、きっとお互いに変わってしまっている事でしょう。ですから私は別れの言葉を書きます。さようなら、鴨白湯ラーメン。あの店でたったひと冬だけ出していたラーメンを味わう事はもうないのです。もう朧げになったあなたの白い姿と味だけを抱えて私は生きていきます。《泣かないで私の恋心、涙はおまえにゃ似合わない。ゆけ、ただゆけ、いっそわたしがゆくよ、ああ心が笑いたがっている》。