不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

都築政昭『「小津安二郎日記」を読む』/朝風呂、昼寝、酒

 小津安二郎が日記をつけていた事は知っていたが読んだ事はなくて、ふと本書の存在を知ってこちらを読んでみた。日記からたどる小津の人生と作品で、ピシッとまとまっていた。引用されている日記を読む限り、これは別途読む事はないかなとも思った。朝風呂、昼寝、酒が好きで、創作の苦悩葛藤、巨匠になった後のプレッシャーはむろんあるだろうが、どこか気ままに見える姿がいい。

 基本的に興味深くおもしろく読んだのだが、ちょっと恋愛事情や性的な部分に踏み込みすぎているきらいもあった。日記から読み取れるものもあるけれど、あんたに言われたくないだろうと思ったり、そこから独り者である事の悲哀を滲み出させようとしているようにも受け取れて、かなり大きなお世話ではないかと思った。

 ところで、ネットで時折見かける「どうでもいい事は流行に、重大な事は道徳に、芸術の事は自分に従う」という小津の発言が出典付きで引用されていて、初めて全文を読んだ。確かにそう言ってはいるけれど、小津はこれを《理屈に合わない》としているのがおもしろく、それでも《ぼくはそうやる》と言いたかったのだろう。単にこれがいいという話ではなかったので、受け取り方が変わりそうだ。

「ぼくの生活条件として、なんでもないことは流行に従う。重大なことは道徳に従う。芸術のことは自分に従う。どうにもならないものはどうにもならないんだ。これは不自然だと百も承知で、しかもぼくは嫌いだ。そういうことはあるでしょう。嫌いなんだが、理屈にあわない。理屈に合わないが、嫌いだからやらない。こういうところからぼくの個性が出てくるので、ゆるがせにはできない。理屈に合わなくともぼくはそうやる」 (『彼岸花』撮影中の座談会、「キネマ旬報」昭和三十三年八月下旬号)

 ちなみに先日読んだ、『ラブレーの子供たち』には小津安二郎のカレーすき焼き」なるものが取り上げられていたが、本書には出てこなかった。