不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

うつくしい羽/とりあえず喰え

 著者は知らなかったが、フランス料理店を舞台にした小説で装丁がキレイだったので手にとって、パラパラと読んだらいい意味でちょっと引っかかったので購入。上村渉『うつくしい羽』(書肆侃侃房)。妻と別れて故郷に戻った男がひょんなことからフランス料理店で働く事になり……と聞けば、食と人間関係によって喪失から再生への物語なのかと想像がつくしその通りではあるのだが、そこまでわかりやすく単純明快でもない、そうそう簡単に再生なんかはしない、引きずっていくその重さをどう感じ、受け止め、また引きずるのか。もう少しだけ長く書いて欲しかったと思った。余韻といえば余韻だが、余韻をもっと響かせるために。

 なかなかよかったなと思いながら、併録されている「あさぎり」も読んでみたら、これがかなりすばらしい。女性四人(他の主要登場人物もほぼ女性)の“家族”の物語。地の文でも会話でも鉤括弧を使わず、それによって感情や心象を固定させない事で、さまざまなものが繋がって、そして先へ先へと形を変えて流れていく。こちらは弁当屋が舞台で、二篇とも食事がキーになっている、料理を作る事、生きる事は食べる事、誰かと食べる事、誰かの作ったものを食べる事。

うつくしい羽

うつくしい羽

  • 作者:上村渉
  • 発売日: 2020/12/06
  • メディア: 単行本