不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

ホッカイロ

 朝、出かけに「寒いからカイロ持っていきなさい」とカミさんに言われて渡されたホッカイロをコートのポケットに突っ込みながら、母ちゃんみたいな言い方だったなと思って、でも俺の母ちゃんはそういう話し方はしていなかった、というかカミさんも実際にはこんなふうには言わなかった、俺は母の事を母ちゃんなどと呼ばなかったし書いた事もなくていま初めて書いてみた。最初は「お母さん」でその後「母」と呼ぶようになった、「母ちゃん」の自分とのミスマッチ感がものすごくて、書いてすぐから身体がうずうずするほどだった。「はは」「あね」といった呼び方の直接ではないが影響を受けたのは『ぽっかぽか』という漫画で、確かテレビドラマにもなったが俺はガキの頃に住んでいた家の近所にあった蕎麦屋で読んだだけだ。蕎麦屋は可もなく不可もなくといった店で、唯一の思い出はある日、体調が悪くて天ぷらそばの上に吐いてしまった事くらいだ、丼の上にきれいに吐いてどこも汚さなかったのが妙におかしかった。あの店はまだあるのだろうか、街は変わっていくものだ、今夜いまの地元で会った人は十年くらい前にここに住んでいてもう知っている店はほとんどないですね、と言っていた。駅で別れて、帰り道を歩きながらコートのポケットに手を突っ込んだらホッカイロはまだ温かかった。