不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

クリフのことと二人のこと/続々・『OUATIH』の話

 いまさら書くのもなんだが、この『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の一連の感想にはそのものズバリ露骨には書かないものの、展開やらいわゆるネタバレやらは書いていくので嫌な方は読まないでください、この作品に限らず見たいと思っている映画ならば予告くらいで止めて言及している記事やブログは読まないようにしておくべきだろう。Twitterなどで流れてくるというなら、SNSをやめておけ、やめらないならネタバレを見る可能性は仕方ない。タランティーノ本人もネタバレ厳禁のような事を前もって言っていたそうだが、ネタバレしたからといって魅力が半減する事もないと思うのだけれど(時間を描いているのだから)。

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 訳ありでもバッドガイでもないリック・ダルトンだが、終盤に思いも寄らなかった事をしでかし、あれは買い取ったのか、まだ使えるのかといった疑問が浮かんだけれど爆笑ものではあって、だがそれ以上にリックが衝動的にだとしてああいう事をするのは唐突で少し違和感を持って、従来のQT映画ならば違和感を持たない事を思うと、やはりこの映画この人物は異質である。一方、もう一人のクリフ・ブーンがああいう行動をシレッとやってのけるのは、全く違和感がない。

 クリフは訳ありで、もしかしたらバッドガイだ、しかし彼もまたこれまでのQT映画にはいなかった、死んでいないだけと言いたげな佇まいをした、虚ろな目。住んでいるトレーラーハウスはゴミだらけ、だけど犬はピカピカでエサは切らさず躾もキチンとする。戦争帰りだそうだ、ブルース・リーとのあれこれはアジア人蔑視が彼の中にあったかもしれない。女房殺しだそうだ、捕まってはいないからあくまで容疑だけ、それによって鼻つまみ者になってしまった。リックがいつどうやってクリフと出会ったのかは不明で、リックが彼を大事にする理由も不明で、クリフがどういう人間なのかも不明だ、不明な男、それがクリフ、訳あり。

 演じるはブラッド・ピット、『リバーランド・スルー・イット』で知って以降ずっと好きであり続けた人だ、いまでも好きだ、ブラッド・ピットになりたかった、彼と同じ髪型にしてくれと美容院で頼んだらすぐさま「無理です」と言われた、二度と行かなかった。本作では不明な男を見事に演じ切っている。上半身裸になった時にいい身体をしていた、説得力がある、ブルース・リーにも勝てるかもしれない。そのブルース・リーのシーンは、遺族から文句が出ているという話を聞いた、無理もない。『グリーン・ホーネット』の時期のリーがあんな感じだったのか俺は知らない、クリフのトラブルと喧嘩強さを描写するためのシーンだろうが、QTにしては愛のないシーンで浮いていた。ブラッド・ピット主演で西部劇を改めて撮るべきではないかと思ったスパーン映画牧場についてはまたいつか。

 リックとクリフ二人の関係と時間を描いたのが本作だと繰り返し書いているが、どんな関係か、これがなかなか複雑だ。「兄弟以上、妻未満」と劇中では言われているが(これを言ったのは誰なのかという事もまたいつか触れる)、本当にそうなのか、友達だろう、だが雇用関係でもあり、主従が定まっている、女房殺しの疑いのあるクリフをリックが保護しているようにも見える。イタリアから帰った空港で、妻と歩くリックの後ろで荷物を運ぶクリフという構図から、彼らが単純な友情ではないのだとわかる、リックがナイスガイでクリフが不明な男だからこそ成り立っているのかもしれない。二度の「いい友人だ」「努力しているよ」というやり取り、「いい友人」と言ったのは二回とも違う人間で、「努力しているよ」と答えたのは両方クリフ、彼は自ら「いい友人であるために努力している」と言っている、努力せねばならない友人関係なのだと示唆している。単なる軽口かもしれない、屈託なく付き合っているのかもしれない、全て杞憂かもしれない、本来終わるはずだった関係は事件によってどうなるのか、続くのか終わるのか良くなるのか悪くなるのか、実のところ全くわからない、二人の関係と過ごした時間だけがただ横たわっている、その時間の事はその時間を過ごした者しかわからない。