ジェイク・ギレンホール好きのカミさんとホアキン・フェニックス好きの私となれば、いまスクリーンで見ておくべき映画があろうと久々にTOHOシネマズシャンテに出かける、予約はしなかったが平日なので問題なかった。原作『シスターズ・ブラザース』は出た時に買ったのだが何故だか未読のままでいて、しかしそれがよかったように思う。脚色がどの程度されたかは知らないけど。
すぐれて「関係」の映画である。理想を追う、欲を抱える、野心を持つ、疲れを覚える、矛盾を孕む、多様な人間たちが、言葉によって尊敬や信頼を、時には言葉はいらず委ね甘えられる関係を築き上げる。ウォームの夢物語のようなユートピアは、あの時間はたしかにできていた、それは誰かの先走り、あるいは欲かきによってたやすく瓦解する、あっけない。だが瓦解した先でも、相手のためを思って悲しい嘘をついたり、尊厳を保つ手助けをしたり、ささやかな優しさを持てる事もある。ぱっと見、寓話のように安易に教訓を得られそうだが、思い直せば複雑、いや、矛盾しており、その矛盾さが人間なのだと肩を叩きたくなる。
もう一つ描かれる関係は父子関係ですなわち「父殺し」、男ども誰もが抱えるエディプス・コンプレックス全開な作品であり、その中で唯一「父殺し」の果たしていない彼が覚悟して挑んだ結末が、あんなあっさりしたもので、何だか妙な爽やかさすら感じてしまった、そりゃいつか死ぬよな、ベストの結末なのかはわからないけど、まぁ何発かは殴らせてくれればいいや、と苦笑い。
誰かを殺せば、誰かに恨まれ、つけ狙われ、また殺せばまた別の誰かに狙われる、ずっと殺し続けるか自分が殺されるしかない、という因果に疲れて、いろいろ失って、だけどそれをプッツリ断ち切る事ができたのならば出直そう。死と喪失がつきまとう血煙上がる西部劇の(そして父殺しの)フォーマットをアップデートし、弾丸から歯ブラシへ、黄金から生活へ、タフでなければ生きられない、優しくなければ生きる資格がないと、現在ただいまの時代や世界に問いかけてきて、不覚にも、別に不覚ではないか、ともかく感動すらしてしまった。
カミさんは「これと『スパイダーマンFFH』でジェイク・ギレンホール欲(犬っぽい顔)を堪能した」と満足しており、私もホアキン・フェニックスとジョン・C・ライリーのコンビがよくてニンマリ。欲を言えばあの四人の掛け合いをもっと長く見たかったかな。夜の撮影もよかった。それにしても兄ちゃんは強い。

- 作者: パトリック・デウィット,茂木健
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2014/12/12
- メディア: 文庫
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