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日記と余談です。

「プロレス」という文化/を語る狂ったやつら

 岡村正史『「プロレス」という文化 興行・メディア・社会現象』(ミネルヴァ書房。バレンタインデーでカミさんから「はい、チョコ」と言って渡されたのが本書であった、本物のチョコも別にもらった、ホワイトデーは何もあげていない、近々お茶をご馳走する予定。何せミネルヴァ書房である、この硬いタイトルからして内容も硬派だろうと思っていたが、確かに硬いものの興味深いものだった。

 第一章はロラン・バルトの「レッスルする世界」を論じているのだが、バルトが見ていたのはフランスのプロレスで、ではフランスのプロレスとはどんなものだったのかと続くのだ、これまでプロレスの本でフランスのプロレスを書いたものはなかったはずだ、そもそもフランスがかつてプロレスが盛んであった事すらそれほど知られていないのではないか。そして力道山(研究)について自身のフィールドワークも踏まえてたっぷり語り、日本プロレス史へと展開していく。

 タイトル通りあくまで「プロレス」という文化、という外観を論じており、プロレス(業界)内の話はあまりない。また、力道山については別に著書があるほどの思い入れがあるようで、熱く、厚く、語られているのだが、最近の話は結構薄味だし、力道山研究ほど食い込んでいない。たとえば細かな話だが、古舘伊知郎が「報道ステーション」でプロレスを扱えない事で葛藤はなかったのか、「2010年の山本小鉄訃報の時のみ悲しくも解き放たれた時間だったのかもしれない」と書いているが、同番組では橋本真也の訃報も扱っている(三沢の訃報は扱っていないはず)。何より古舘は良くも悪くも移り気のある人で、おそらくプロレスを離れてからはプロレスに興味を持っていなかったのではないか。他にも「プロレスと永田町」と題し、プロレスと政治家の関わりを書いた章があるが、いろいろな政治家のプロレスにまつわる発言を取り上げながら、おそらく現在の政界きってのプロレス好きである野田佳彦に触れていないのはいただけない。それ以外でも、特に最近の話の中では、ここは違うのではと疑問に思う箇所がないではなかった。

 本書がもっともスウィングしているのは第四章「プロレス文化研究会の言説」である。社団法人・現代風俗研究会のワークショップ活動として著者と井上章一らが旗揚げした会で、その活動内容を当時の資料や音源再生と共に著者自身のプロレスとの関わりを書いているのだが、これがおもしろい。中でも井上章一の発言がいい。これは活字プロレスだ、読ませる。笑いながら読んだところも少なくなかった。なかなか読み応えのある一冊だった。著者が言うように「類書のないプロレス本」と言えば言えるかも、ただそこまで突き抜けたところはなかったけれど。

「プロレス」という文化:興行・メディア・社会現象

「プロレス」という文化:興行・メディア・社会現象