不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

言葉

 古本屋の一角にリトルプレスのコーナーがあり、何気なく見て、タイトルに惹かれた一冊を買った。それがくどうれいん『わたしを空腹にしないほうがいい 改訂版』である。俺も子供の頃、腹が減ると機嫌が悪くなった、さすがにいまはそうではない、と自分では思っているけれど周りはどう見ているのか、実は機嫌悪いのだろうか。奥付によると著者は漢字で工藤玲音、1994年生まれ、岩手県盛岡市出身で在住の俳人歌人。本書は《俳句のウェブマガジン「スピカ」に二〇一六年六月に連載され》たものを《加筆修正をし》て本にし、さらにそれを《改訂版として再編集したもの》だそうだ。発行は2018年8月19日で、俺が手に取ったものは2019年1月21日第四刷、詳しくないがこの手の本で四刷はすごいのではないか。

 内容は2016年6月の一ヵ月間と、2017年6月の五日間の食日記(末尾に二つの対談とあとがき有り)。一日ずつ冒頭に俳句が載っていて、まずそれがいい。そして日記自体もすばらしい、言葉の使い方や選択、それによる文章のセンスが際立っていて、一日一日の時の刻みがよく練られており、メチャクチャおもしろい。これは名著ではないか、日記をこれからもずっと書いてほしいとすら思う。

 ふと、言葉がすごいという感覚、最近も味わったよなと記憶を掘り返して、ではなくて、日記やTwitterを遡ってみたら、こういう事をするから記憶力が劣っていく気がする、辿り着いたのが昨年末に読んだ平出隆『私のティーガルテン行』(紀伊國屋書店だった。いわゆる回想記で、その手のものは苦手な方だったのだが、これはとにかく文章や言葉がすばらしい。何気なく読めるが考え抜かれ、練られ、研ぎ澄まされた言葉と文、そういう観点で言えば昨年のベストと言える、ちょっとたじろぐほどで、いや、すごかった。中でも「上級生たちの光彩」は著者本人の文章もさることながら、著者も驚くほどの上級生たちの文章、無名の天才がいる。もう一つ、恩師・出口裕弘の事を綴った「獣苑の恩師」。これもまた出口の文章がよくてねぇ、もう、いい、しか言えない自分の貧困さにガッカリする。

 俳人歌人、詩人……どれも違うものだから一緒くたにしてはならないのだけれど、共通しているのは、極限まで言葉を研ぎ澄ませた人たちである事だろう。そうわかったふうに書くが、俺はどれもたしなまないし、どれも読めない、読めないのだ。詩集は何冊か持っているけれど、開いてもどう読んでいいのかわからない。ただ、たとえば小説、いや小説に限らず文章の中でそれらの作品が引用・挿入されていると、目を引くし、強烈なインパクトを受ける時もある。文章に埋もれている形でなら俺もそういった作品を楽しめる、むしろそういう形が一番その作品を際立たせるような気すらしている、これもまたわかったふうに書いているわけだが。

 ここまで書いて、ふと、ふとが多い、ふと先日日本語のラップをやたら聞いていると書き、正直言ってこれと思うラッパーやアルバムにはまだ出会っていないのだけれど、とにかくいまもまだ聞き続けているのは、言葉を求めているからではないか、そしてそれを発したいからではないか、と思い至ったところで終わります。
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私のティーアガルテン行

私のティーアガルテン行