不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

ヒトラーとドラッグ:第三帝国における薬物依存/ナチと毒薬

 ノーマン・オーラー『ヒトラーとドラッグ:第三帝国における薬物依存』(白水社、須藤正美訳)。ナチやヒトラーに特段の関心があるわけではないが(ないわけではない)、表紙写真のヒトラーのヤバさに惹かれて手に取ってみた。自称(いや、結構な人がいまでもそう思っているか)禁欲主義者ヒトラーがヤク中だった事を暴くノンフィクションで、あくまでドラッグに焦点を合わせているのだが抜群におもしろい。
 そもそもドイツが薬物先進国であった事から始まり(そもそもの歴史はゲーテから!)、国や軍隊に蔓延する覚醒剤ヒトラーと主治医モレルとの共生関係、そして1941年以降の様々な出来事をドラッグを媒介にして理解可能のしていく。5年かけたという資料読み込みの熱量と、巧みな筆さばきで一気読み。随所に挟まれる写真がどれもまた強いが、何よりも最初に書いた表紙写真のヒトラーの顔よ。俺はこの写真を初めて見たが、完全におかしい。実際、薬が切れたヒトラーはもう廃人寸前。
 しかし、これも結局はヒトラーの一面でしかないのだろうし、訳者須藤氏も解説で指摘しているようにいささか小説家でもある著者の想像力が膨らみ、筆が滑って見てきたかのように書いている部分があったり、薬に収斂しすぎではという部分はあるので、留保が必要ではある。だからこそおもしろいノンフィクションになったとも言えるのだが。当時のドイツのヤク事情はよくわかったけど、他の国はどうだったんだろう。日本だって特攻する兵士にヒロポンを与えたりしていたと思うが。というか、あの頃はドラッグはどの国でもある程度使われていたんだっけ。
 この本を読んだし、他のナチ関連の本も読んでみよう、手始めに同じ白水社から出た『ヒトラー』にしてみるかと図書館で借りてみたら、600ページ超え二段組み上下巻、手始めどころか本丸だった。上巻だけでも期限内に読める自信がない。

ヒトラーとドラッグ:第三帝国における薬物依存

ヒトラーとドラッグ:第三帝国における薬物依存