不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

ちょっと前に読んだ本

 磯部涼『ルポ 川崎』(サイゾー。川崎のあの殺人事件にまつわるルポルタージュだが、真相を解明するのではなく、深層へと潜り込んでいく一冊。著者のフィールドである音楽(ヒップホップ)を軸に、人脈を駆使して人と会って話を聞きだすのが、よくぞここまで聞きだせたものだと感心するし、その言葉の強さと重みをずっしり感じる。正直、俺は川崎には行った事がないし、出てくるラッパーたちも知らない。だが、知らない俺にもビビッドに彼らの姿が見えてくる、写真もいい。安易な肯定否定ではなく、《そこに差し込む光のようなもの》(エピローグ)があった。分断の先へ、音楽、そして政治の力と役割を思う。実はこういった地域が持つ特殊性というものは、どこの地域にもあるものなのだろうとも思った。質や形が違うだけで。そういった特殊性は、大事なものであると同時に、呪いのようなものにもなるのかもしれない。俺も根無し草ではあるが、いまだに故郷に対する妙な気持ちは残っているし。

ルポ 川崎(かわさき)【通常版】

ルポ 川崎(かわさき)【通常版】

 檜垣立哉『食べることの哲学』(世界思想社。何かを喰う=生命を喰う、という食について哲学をスパイスにして仕上げた軽妙エッセイで、おもしろい。特に宮沢賢治、そしてアンパンマンのくだりが興味深い。毀誉褒貶ある映画『ザ・コーヴ』も、こういう見方があるのかと感心した。良書です、オススメ。《「動物の権利」論にはあまり賛成できない。この手の功利主義的議論には、どこか私自身が動物だという大前提が、論理的にも感性的にも欠落しているようにみえるからである》。
食べることの哲学 (教養みらい選書)

食べることの哲学 (教養みらい選書)