不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

どもる体/この体で生きていく

 伊藤亜紗『どもる体』(医学書院)。著者の本は『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(光文社新書)を読んでいて、こちらはタイトル通り「見えない」事から「情報」「意味」を問いかける一冊で、おもしろかったのだが文章がイマイチ乗れなかった、しかし本書は抜群におもしろい。医学のシリーズで、地味と言えば地味なテーマなのだが丁寧な論考と筆致で読ませる、ぜひ一読を薦めたい。
 タイトル通り「どもり」がテーマだが、声や喉ではなく体なのは、「喋る」が身体的行為であり、体のエラーとしてどもりが起こるから。「喋る」とはどういうメカニズムで起きているのか、という話からスタート。そして、私の意志で私の体を動かしているのに動かない、「私」と「私の体」の不具合、「私」と「私でない私」の揺らぎ、その溝にどう向き合っていくか、さらに身体的な面だけでなく社会的な存在としての「私」にも目を向け、この社会でこの体で生きていく事を考えていく。
 どのパートもいちいち引用したくなるほど興味深い。中でもどもるのが治った方の話がいい。治ったと言うがそれは工夫に「乗っ取られ」ているからで、「素のしゃべり」ができない、《『私も、せめて大切な人の前ではどもりたい』と思った》という一言に、俺は少なからず感動をしてしまった。これほど「私」と「私の体」への問いかけをした本もそうあるまいし、自分の視野の狭さみたいなものを痛感した。著者もあとがきで言及しているが、イラストがユーモアありながらも的確。わかりやすいし、本当によい本です。実際に声に出して、ぶつぶつ呟きながら読んでしまった。

どもる体 (シリーズ ケアをひらく)

どもる体 (シリーズ ケアをひらく)