不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

ブッチャーズ・クロッシング/牛の屍を超えていけ

 ジョン・ウィリアムズ『ブッチャーズ・クロッシング』(作品社、布施由紀子訳)。日本翻訳大賞読者賞を受賞した『ストーナー』より前に書かれた、バッファロー狩りに行って帰ってくる、一応主人公は若い青年だが、男四人の物語。『ストーナー』が内側の静だとすると、本書は外側の動のベクトルで生の希求を描いている。個人的には評判の高い『ストーナー』より好き(絶賛されすぎな気もしている)。
 あくまでも目で見えるものだけを描写しており、細かなディテールに凝りすぎず、でありながら「その場で見ながら書いているのか」と思ってしまうほどの精緻な描写の数々で、それによって読者の内で確かにこの世界が豊かに広がっていき、男たちと自然の変貌がありありと見えてくる。もちろんいろいろと事が起きて一つひとつはドラマチックではあるのだけれど、ずっと一定のリズム――それは常に一定である時間の流れや自然の動き、心臓の鼓動のリズムかもしれない――によって坦々と進んでいくので、いささか淡泊に感じられるのだが、いつの間にか読んでいる者も四人のすぐそばにいて、共に自然の中で過ごしているかのように錯覚する。
 そうやって坦々とした静謐な筆致でありながら、虚無的な暴力、無軌道な乱獲、変貌する内面、抗えない大自然、地方=カントリーという、「アメリカ」もまぎれもなく描いているからすごい。語彙貧困で申し訳ないが、すごい小説です(またかよ)。

ブッチャーズ・クロッシング

ブッチャーズ・クロッシング