不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

ブラック・マシン・ミュージック/君の音が鳴り続ける

 野田努『ブラック・マシン・ミュージック: ディスコ、ハウス、デトロイト・テクノ 増補新版』(河出書房新社デトロイトは何故映画などでああいった描き方をされるのだろうと書いた『ドント・ブリーズ』の感想のコメント欄に、暗黒皇帝ことglobalheadさんが本書元本からの引用を残してくれて*1、その直後に図書館で借りたものの読み切る前に期限が来てしまい、改めて読まねばなと思っていたところに増補新版が出たのですぐさま買ったものの、積んだままにしてしまい、しかしまさに『デトロイト』が公開された今年こそ読まねばと、連休を使って読み切った。テキスト自体メチャクチャおもしろい上の、テクノはそれほど知らなくともYoutubeSpotifyで音を聞きながら読めたので、おもしろさが倍増した。ディスコから始まり、ハウス、そしてデトロイトテクノへの体型的な流れと差異が勉強になった。
 デトロイト、かつての自動車の街、フォーディズムの破綻、人種差別と暴動、先の見えない若者たち、郊外の空疎、マイノリティ、マイノリティの中のマイノリティ、彼らにとって必要だったのは、ロックやパンクのように、現実を超えろ、現実を壊せ、現実と戦えと拳を固めるのではなく、現実を否定し、ここではないどこかへ誘ってくれる、世界から拒絶された者たちの、現実から逃げるための音楽、魂が押しつぶされるところ浮上させてくれる音楽、音楽が、音楽だけが俺たちを救う、そんな切実さとメランコリーが、彼らの言葉と音には込められていた。
 俺はマイノリティではない。社会にもしっかり組み込まれている。しかし、たぶん俺だけでなく、多くの人が抱えているであろう、ある種の欠落、孤独、虚空を、ダンスミュージックは奏でているのだと、本書で気づいて、現実に向い合わざるを得ないオッサンになってからテクノなどを聞くようになったのは、そういう事なのかと思った。

*1:暗黒皇帝の本書の感想はhttp://globalhead.hatenadiary.com/entry/20040829/p1