不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

最近読んだ映画本

 ベ・テス『北野武映画の暴力』(クオン)サム・ペキンパー深作欣二の暴力と比較しながら北野武の初期三部作『その男、凶暴につき』『3-4×10月』『ソナチネ』の暴力を論ずる。筆者は韓国人で、日本で書かれた論文が元らしく訳者の名前はなし。
 視点はあくまで暴力だが、そこから「北野武が描く男と女」や「暴力映画とポルノグラフィー」にまで思考を発展させたのは、読み応えあった。特に女性と暴力については、これまでになかったように思う。《暴力は、北野映画において、対話の手段になり、生への小さな意識を回復させるきっかけにもなる。あるいは、死の恐怖から抜け出させてくれる唯一の方法となることもある》。比較するのがペキンパーと深作だけで、これ以上広げるとまとめるのが大変だからだろうけど、もう少しいろいろと見てみたかったな。特に、国籍で括るのも乱暴だが、著者の母国である韓国映画の暴力との比較なんかあったらおもしろかったかなと。久々に三本とも見直したくなった。
 ところで、134ページにある『ソナチネ』のあの鮮烈なエレベーターシーンの解説部分で、《(エレベーター内で)村川と高橋はお互いに顔を知らないから、存在に気付かず》と書かれていたけど、同じ組の敵同士であるこの二人が顔を知らないわけがないので、この箇所は思い違いか、あるいは書き間違いではないかな。

北野武映画の暴力

北野武映画の暴力

 茺田研吾『脇役本 増補文庫版』(ちくま文庫名脇役たちの自伝などを古本の山から探し出し、そこから脇役たちの人となりを浮かび上がらせる。一人ずつは短めながら、人数は多いし、本人の写真も本の装丁も掲載されていて、コレクター・マニアならではの熱くて、厚い、篤い一冊。俺は知らん人が多かったけれど、存分に楽しめた。中でも自殺した八代目市川圓蔵、グルメ野郎八代目坂東三津五郎が好き。そして何から何まで、とにかくかっこいい成田三樹夫ッ! まさか本(『鯨の目』)の装丁(平野甲賀)までかっこいいとは。ずるい。これ買おうかな。
脇役本 増補文庫版 (ちくま文庫)

脇役本 増補文庫版 (ちくま文庫)