不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

最近読んだ新潮社の小説

 橋本治『草薙の剣』(新潮社)。10代から60代までの「生」の漢字がつく六人の男たちと、その周りにいる名も無き人たちの生活と人生を描く事で、日本の100年という歴史を紡いでいく。誰もの人生がわりと中途半端に終わった気がするのだが、それは生の継続に終わりなしという事だろうか。著者の昭和史を題材にした小説はどれも好きなんだけど、本作の意図や仕掛けはいいとしても、小説自体はまあまあだったかなと思う。タイトルの意味は最後にわかるが、ふーん程度でした。装丁は平野甲賀。本書の前に出た『九十八歳になった私』は読んでないし、たぶん読まない。

草薙の剣

草薙の剣

 小山田浩子『庭』(新潮社)。短編集。15本どの短編にも共通しているのは結婚、子供、家族といった「家」の話である事で、そこでタイトルを思い出せば庭は庭でも「家庭」(住居を同じくし生活を共にする共同体)という事なのだろう。すぐそこにいそう、というよりも、自分がこうなりそう、と思わせる不穏さがある。書き込まれた、密度の高い文章で、世界や生活に入っていき、そして入っていけば世界や生活が変わっていく。日常なのに、少し外れた日常へ。何もかもがわかったりしない、わからないままで世界も生活も続く。この味わい、いい。装丁に使われた絵は、これまでの小山田本と同じフィリップ・ワイズベッカーの作品、作風と合っている。
庭