不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

殺人者の記憶法/声が俺の記憶になる


 原作既読。あの散文詩のような小説をどう映像にするのかと半分心配しながら見に来たら、これは見事な映画化。中盤までは忘れる事の切なさを描く原作通りなのだが、そこから殺人鬼vs殺人鬼というオリジナルのエンターテイメントに仕上げている。ここで評価が別れそうだが、私は大胆で、いい判断だと思った。というか、原作を読む前に期待していた要素を入れ込んだと考えればいいのである。
 小説は一人語りによる揺らぎが内側へと収束していく事でカタルシスと哀切を生んでいたわけだが、映画は外部(自分の仕事、署長、ICレコーダー、白い靴……)を設定する事で記憶より認識に重きを置いて、サスペンスとしてスウィングしている。同じ場面が繰り返されているのにその度に少しずつ違っている事で記憶の歪みが見えてきて、ICレコーダーを外部記憶装置にして信じられない自信の記憶と対比させる事で、それが鍵になる脚本がいい(そこがまた原作との分岐点になっている)。
 正直いくつかの疑問点がなくはないが、達者な俳優たちの演技・顔芸で支えていた。特にソル・ギョングは、その都度で表情が違っている熱演だった。ただ、まぁ、彼のアレは設定も実際に見せちゃう事も蛇足でしかなかったかなと些か残念。そういったはっきりした説明はなくてもいい。むしろノイズにしかならないのだから。