不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

靴の色を選ぶように

 膵臓ガンが発覚し、その後の治療がうまくいって今は小康状態、それよりかなりよくなっている、という方にお会いした。治療の段階で、どの薬を使うかなどを決める事があり、「人生最大の決断でした」と言って、こう続けた。
「だけど、人生における大きな決断というのは、実はささやかなものだなと思いましたね。たとえば、今日は茶色い靴を履こうか、黒い靴を履こうか、どっちにしようか、その時の気分で決めるのと同じようなものだったのです」
 自分の生死がかかっているはずの決断が、靴の色と同じなのかと驚いた。その後で「私も半年後、一年後にどうなっているかはわかりませんが」と付け加えていて、己の正しさを信じていたり楽観的だったりするわけではなかった。俺は、そうか、そうなんだな、そうなのかもしれないな、と妙な納得をしてしまった。
 大事な事を軽々しく決めるというわけではない。ただ、もっと軽やかに、ささやかにいろいろな決断をしてもいいのだろう。そんな事を思った。