不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

いま、ここに、いる

 基本的にベストアルバムというものは入門書みたいなもので、そのバンドやミュージシャンの熱心なファンであればあるほど、別段楽しみではないものだ。全ての楽曲をもう聞いているのだから。だから発売に当たって未発表曲や新曲、はたまたライブテイクやDVDなどのオマケを盛り込むものである。それでも、やはりいつもの新譜のようなテンションで待ち望んでいる人は少ないだろう。
 しかし、ザ・イエローモンキーの新しいベストアルバムTHE YELLOW MONKEY IS HERE. NEW BEST』は、これまでイエローモンキーに触れた事ない人でも、熱烈なファンでも待ち望んでいたものだろう。ファン投票による前のベスト盤『イエモン-FAN'S BEST SELECTION-』の全収録曲を再録音したのだから。
 本作が出る前に、エレファントカシマシも結成30周年記念のベストアルバム『All Time Best Album THE FIGHTING MAN』を出した。全3枚30曲収められているが、エピック期の楽曲は少ない。たとえば「男」シリーズは代表曲といっていいはずである。その理由を宮本浩次はこう語っている。《収録音源は技術的にもまだまだの時期のものだし、音質もあまり良くない。…ベスト盤と言えど、ひとつの作品としてエピック時代の曲が共存できるのか。そこがまず悩みどころでした》と*1
 この言葉に対して、「だったら新しく録音したらいいのに」と思った。もちろん、それがファンの我がままであり、過度な要求である事はわかっている。でも、いま新しく録音したらすごいのになぁと夢想せざるを得なかったのだ。だから、イエローモンキーが全てを新録すると聞いた時は、嬉しくて仕方がなかった。
 新しくしても「この頃から離れよう」「別の姿を見せよう」という衒いはなく、むしろ「いま、これを、やる」という現在進行形なのがよかった。その結果、全然変わっていないものもあれば、ホーンやストリングスでアレンジを施して新たな彩になったり、あまり変わっていないのにレベルがグッと上がっていたりと、どの楽曲も聞きどころがあるものになっていた。白眉は、吉井和哉がかつて思い浮かべていた理想形として美しくなった“真珠色の革命時代(Pearl Light Of Revolution)”、よりタイトな演奏で歌詞の良さを際だたせる“SO YOUNG”、バンドが楽曲のレベルに追い付いて完璧に仕上げた“天国旅行”の三曲から、後半への流れがすばらしかった。新曲“ロザーナ”は吉井がソロを経験したからこその楽曲で、新しさがいい。曲が走っているのに、全体的に低体温なのが好みでライブで映えそう。
 事ほど左様に新譜として楽しんでいるわけだが、同時にわざわざ彼らが過去の楽曲を新しく録音するというのは、思い出と喧嘩した昨年のメカラウロコの延長戦であり、以前書いたように年末のドーム興行が《バラバラでありながらバラバラなのを自覚する事で繋ぎ止めていた実質の解散ライブであったメカラウロコ8と、聞くも無残な“JAM”を披露したメカラウロコ15の借りを返したいのかな》*2という思いはより一層強くなった。そうやって不器用で、無様でも、一歩でも前へ行く姿こそ俺の好きなバンド、ザ・イエローモンキーだぜとガッツポーズをとりたくなってしまったよ。
 思い出との喧嘩の結果がどうなるかはともあれ、ベスト盤とドームのライブによって喧嘩が終わるのは確かだろう。ではその先は? きっと新しい曲を、聞いた事も見た事もない、ロックンロールを聞かせてくれるだろう。いささか先走っている事を承知の上で、楽しみにしているよ! という言葉を残しておく。……だからこそ日程的に行けそうにないドームに、何とか行きたいと画策しているのだが果たして。