不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

ノー・エスケープ 自由への国境/隣の犬が吠え続ける


 メキシコからアメリカへの不法入国の話なので、トランプ云々言われそうだが、しかしアメリカとメキシコの国境線における問題は長年ずっと続いているのだから一朝一夕の話ではないはずだ。一体、フェンス一つでこっちと向こうの何が変わるというのか。人間の争いに、広い大地が呆れているような気すらした。
 強いジジイと犬のタッグから『ドント・ブリーズ』を思い出したが、では『ドント・ブリーズ』のようにサム(ジェフリー・ディーン・モーガン)にも背景・経緯があるのだろうなと少し考えたが、万能すぎる犬トラッカーに、弾数と射程距離が無限のライフル、加えて警官とのあのやり取りを考えると、サムは何かしらあって無慈悲なスナイパーになったのではなく、捻じ曲がったアメリカの自警精神そのものに見えてきた。
 サムとトラッカーから逃れられたとしても結局は彼らが外部の人間である以上、その曲がった自警精神に追われ続けるのではないかと思うと、絶望感が重くのしかかってくる。そうまでして国境を越えてきた彼らは、絶望と引き換えに何を望むか。主人公モイセス(ガエル・ガルシア・ベルナル)の綴りが「Moises」、つまりあのモーセだとするなら、彼らが目指したのは約束の地だったのかもしれないけれど、約束の地に辿り着く前に倒れたという彼の跡を誰が続くのか、続いていいのか、いや、そもそもそこは本当に約束の地なのか……そんな重く暗い問いばかりが頭に浮かんでしまった。不法入国者の事情・状況からするとこの邦題は思ったよりフィットしていると思うけれど、的外れな副題にはイラつきさえ覚えた。