不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

ビンスの「キミたち」への言葉

 ドナルド・トランプが大統領選挙の戦術の一環として、人心掌握や先導の仕方をビンス・マクマホンと殴り合ったWWEでのリングで学んだ、という話は町山智浩氏はじめ、すでに結構話されている事だと思う。俺もそれを思い出して、昨年8月にTwitterで《ドナルド・トランプがここまで支持を集めるのなら、ビンス・マクマホンならちょっと頑張れば大統領になれるのでは》と書いたのだが、まさか当のトランプが大統領にまで上り詰めるとはこの時は思わなかった。どこかのメディアは大統領選についてビンスに話を聞きに行ってはいないのだろうか。
 今日になってふと思い出したのは、トランプがリングに上がった一年後の2008年に、ビンスが番組である企画を行った事である。その名も「マクマホンズ・ミリオンダラー・マニア」。検索したら、当時の記事のアーカイブがあったので詳しくはそちらを参照していただきたいが()、簡単に言えば、社長のビンス・マクマホンが、自らのポケットマネーを出して毎週100万ドル(約1億1000万円)を視聴者にプレゼントする企画だ。計三回行われ、という事はビンスは三億円を自腹で出した事になる。
 俺はこれが行われた時、日記で言及した。そこでは《一時的な視聴者の目を引き付ける事はできるだろうが、正直全く魅力が感じられない企画だ》と批判気味に書いており、その思いはいまも同じだ。そもそも単なるクジみたいなものだからプロレス番組の一コーナーとしておもしろくないし、あまりにも下品だ。金目当ての人はともかく、日本でも世界でも、このイベントを娯楽として楽しみにしているプロレス(WWE)ファンはほとんどいなかったのではないか。覚えている人も少ないはず。
 にもかかわらず、俺が今回思い出したのは、前の日記でも引用したけれど、ビンスが第一回の演説でこんな事を言っていたからだ。

「この国のエリートと呼ばれている人間は、このジャンルを見下している。そしてキミたちに見向きもしない。だが、キミたちはアメリカ社会の縮図だ。人種的にも経済的にもアメリカを映し出している。エリートたちはそれがわかっていない。今こそ、キミたちの力をアピールするのだ。安心したまえ、ここはエリートと呼ばれる人間は立ち入り禁止だ」

 そして、コメント欄である人とこんなやり取りをした。

Nakamyura 2008/07/22 01:40
(前略)実際ね、こういうことを言いながらエリート層のトップにも君臨するビンスの凄さを、アメリカのファン層はどこまで理解してるんだろうと不思議に思うのです。だって「安心したまえ」って、これビンスだからこそ言えるかなりド凄いセリフですよ。ビンス凄い。凄いビンス。


dragon-boss 2008/07/22 22:40
(前略)凄いですよね。身体はってて、汚れ役も厭わなくて凄い、というのはよく言われますが、こういうちょっと素のセリフに含まれている凄味ったらないですね。確かにアメリカのWWEファンってどういう心理なんだろうなぁ。

 いまならよくわかる。ビンスの言う《キミたちの力のアピール》がこの企画で果たされたのかは疑問だが(どこをどうアピールできるというのだ)、しかし「君たちがいる事を、君たちの事を、俺はよく知っているし、わかっているんだ」という言葉は、とても強く心に響いたのではないかと思う。トランプがこれを見たのかどうかは知らない。彼を支持できるかどうかは別問題だ。ただ、トランプを大統領にしたのは、こういう人達だったのだろうと思う。
 前回、Nakamyuraさんが書いた言葉を、今回は俺も使いたいです。
 ビンス凄い。凄いビンス。