不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

最近読んだ海外の本

 ミランダ・ジュライ『あなたを選んでくれるもの』(新潮クレスト・ブックス、岸本佐知子訳)。『ザ・フューチャー』脚本執筆に行き詰った著者が、現状打破(現実逃避でもある)ために売買広告を出している無名の人々にインタビューしたノンフィクション。「自己」と「他者」の物語をどう捉えるか著者が足掻く様が描かれていて、おもしろかった。「人は一生で一冊は傑作が書ける。自分の人生を書けばいい」という出典不明かつ細部は違うかもしれない名言を存分に感じられる各人の話はとても味わい深い。著者の、おそらく自覚ありの無礼不躾、過大な自己承認欲求がこういう形で昇華されていくのかと感心もした。正直ミランダ・ジュライの小説はピンと来なかったんだけど、これはすごくよかったな。当の『ザ・フューチャー』は未見だが、ある意味この本とセットの作品と言えるかもしれない。というわけで、近々見ます。

 リチャード・パワーズオルフェオ』(新潮社、木原善彦訳)。初パワーズ。音楽と細菌とテロを一人の作曲家の人生で一本の糸で繋ぐ技巧がすごい。《音楽は"何か"そのものであって、何かを"意味"しているのではない》の一文を超えるような「音楽」小説ではなく、あくまで音楽「小説」で、音楽と言葉の境界線を感じた。
オルフェオ

オルフェオ