不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

ど真ん中だったのか?

 田崎健太『真説・長州力 1951-2015』(集英社インターナショナル。たいへんおもしろかった。俺は闘魂三銃士(と四天王)を一番見ていた世代で、長州力はすでにベテランだった。だから、彼のやってきた事や凄さは聞いていても、あまり実感はなかった。そのため彼の大枠の生涯や物語は知っていたけど、血肉の部分は知らず、これを読んで、なるほど一筋縄ではいかない人物だとよくわかった。口調がまさにそのまま長州節だったのもよかった。
 子供〜アマチュア時代は非常に楽しそうに語るが、プロレスの世界に入ってからはプロレスを「仕事」と言い切るほどドライに語っているのがとても印象に残っている。長州はプロレスが好きではないのだろう、と思うほどの語りっぷりだった。
 著者の事は知らなかったが、丹念な資料の読み込み、関係者への丁寧な取材、誠実な態度には好感を持ったし、プロレスに熱狂していなかったからこその踏み込みがよかった。柳澤健といい、業界外の人の方が書けるのかもしれないな。中でも関係者の証言は知っている人だらけなので余計におもしろかった。みな曲者でありながらもいい人で長州への愛憎をたっぷり語っているのだが(アニマル浜口、キラーカーン、そして谷津嘉章!)、永島勝司だけはまさにタヌキ親父で言う事為す事信用できない空気がプンプンした。さすがといえばさすがである。
 大人になってからの私生活にはあまり踏み込んでいない。たとえばDV離婚騒動などがあったはずで、どうでもいいといえばいいんだけど、評伝ならばそこにも踏み込むべきだった気もする。ノンフィクションのその辺のさじ加減は難しい。
 特徴的だったのはレスラー人生の表部分、すなわちいつ、誰と戦って、その時の勝利がどういう意味を持っていたのかなどについては、あまり触れられていない事。猪木からの初勝利なり、G1優勝なり、橋本真也とのつぶし合いなりをどう見て感じていたのかは聞きたかった。そんな中でも例の「噛ませ犬」発言や前田顔面蹴り事件には言及していて、それは舞台裏、つまり団体内外の駆け引き、業界や金の動きに関係しているからだろう。そこはたっぷり語られていて、裏側を多くの証言からあぶりだしている本はあまりないので、貴重な一冊と言えるかも。
 長州を語るうえで外せないが取材に応じなかったのはアントニオ猪木マサ斎藤、そして佐々木健介の三人。猪木は駆け引きとして応えないだろうと思うし、資料が山とあるのでまぁいいだろう。だが、後の二人の話は聞きたかったけれど、それに対しての長州の反応がまたくすぐられる。マサさんが応じなかった事を聞いて《寂しそうな顔を》、健介が応じなかった事を聞いて《鼻で笑った》というのだ。
 うーん、底なし沼ッ!

真説・長州力 1951‐2015

真説・長州力 1951‐2015