不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

もうすぐ死ぬんだから気にすんな/龍三と七人の子分たち


 『文學界』2015年5月号に掲載されたインタビューで、龍三を演じた藤竜也が「アドリブはなく脚本通りに演じた」「演技のアレンジをしてもすぐに監督のチェックが入った」と話していて、(『アウトレイジ』の時は知らんが)これまで武はプロットや流れだけ決めてあとはその場で役者に任せるというスタイルだったと記憶していたが変えたのかな、これがどう作用しているのかなと少し心配していた。
 そしていざ本作を見てみると、なるほど、これは脚本通り、監督の指示通りにやらんと成り立たない作品だとよくわかった。つまり本作は、ビートたけしの漫才やコントそのものなのだ。ニタニタしながら「こんなのどう?」と話をしている様子が眼に浮かぶ。だから武/たけしの考えているリズムでやらないとおもしろくならない。
 正直言って、映画としては脚本はかなり荒い。オレオレ詐欺にひっ掛った件は冒頭以降一切出て来ない。息子の食品偽装もそうだ。一龍会結成もガキをこらしめるという目的からなのだが本気か冗談かよくわからない。父子関係や近所の子供達とのあれこれは進展がなく、周辺の人間関係も描かれていない。元ヤクザと世間のズレとの葛藤もほとんどなくて、思いついたままに行動している。
 だがそれは当然で、漫才・コントのネタなのだからそんな複雑な描写や感情はいらないのだ。単に「おもしろいだろ、これ」をそのまま映像化しており、加えて出てくるのは居場所のないジイさんばかりなのだから、もう面倒な事は放っておいて思うところをやっちまおうという監督含めてジジイどもの荒れ狂いなのだ。誰も止められない。
 ネタの映像化はこれまでも行われたが、本作がもっとも秀逸な出来栄えだ。それは何より『アウトレイジ』『同 ビヨンド』で会得したメインストリームにおける塩梅加減が如何なく発揮されていて、本作も絶妙なバランス感覚で出来上がっている。暴力表現は控えめ(しかし抑えるところは抑えている)、過剰な下ネタはなく、テレビサイズのネタばかりと思いきや終盤には(物理的な)熱い死体蹴りをちゃっかり持ってくる強かさ。中盤でグダつく時もあったがそこはジイさんたちのリズムだし、カーチェイスのチープさも笑えるものだったので、全部OKである。
 主要キャスト含めて、役者はみなハマっていた。最初は無理くりキャラを演じていたように見えた藤竜也はいつの間にかヤクザにちゃんと見えて、衣装の着こなしがかっこよかった。MVPは最初から最後までひどい役を演じ切った中尾彬、えらい。
 と、まぁかなり楽しんだわけだけど、ぼちぼち北野武の本気(本道)が見たいなとも思ってしまったりもした。本気とは何かと問われるとそれはそれで困るのだが。